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決して、この男を許した訳では無い。
現にこの男の残した指のせいで被害は相次いでいるし、直に本性を表すに決まっている。
でも、それでも。
私は彼が時折見せるこの表情だけは、真実のように思えてならなくて。
「忠告しておくが、生きている内に後悔は残すなよ。」
「遠回しに殺すって言ってます?」
「阿呆か。」
そう言って頭を小突かれる。
なんだ。てっきり遺言でも用意しとけと言われるのかと思っていたのに。
「愛ほど歪んだ呪いは他にない。
後悔を残して死ねば呪いに転ずる。」
やけに真剣な声色だった。
未だにこちらを見てくれない緋色の瞳は、ゆらゆらと水面を映して揺れている。
何だか随分と深刻そうな空気。それが少し嫌になって、思わず茶化すように「それって経験談ですか」と聞けば、見るからにうざ、と言いたげな顔をされた。
解せない。
機嫌が悪くなってしまう前に「冗談ですよ」と笑って誤魔化せば、やはり神妙な顔つきの宿儺が目に入る。
ほら、そうやって人間らしい顔をしてくれるのだから。
まるで何かに苦しめられているみたい。
この現世に存在する全てが信じられない、みたいな、そんな。
「……これは、俺の知り合いの話だが」
「え、宿儺さんお友達いたんですか。」
「殺すぞ」
「だから冗談ですって!!
……で、その方がどうかしたんですか?」
続きを促せば、宿儺はまたもやじっと口を結んでしまった。
一度、二度、瞬きを落として、やはりこちらには向けず視線を地面へ投げる。
揺れる睫毛の一本まで、見逃したくない。それ程に美しい姿だった。
今まで見てきたもの全てが偽りだと言われても信じてしまいそうになるほど、今目の前にいる彼は、全てが本当で。
「その男は、ただ一人。誰よりも愛した女がいた。」
さながら、子供に御伽噺を語って聞かせる母親のような声だった。
何かが始まる気配を存分に察知した私は、一気に彼を揶揄う気持ちが失せてしまう。
唾を飲んで、今一度姿勢よく座り直す。
彼の呼吸。彼の瞬き。彼の心拍音。
その全てが聞こえてしまいそうなくらいに、静かだった。
沈黙に耐えかねた頃になって、彼の重い口が再び開かれる。
「──ずっと、昔の話だ。」
彼だけが、別世界の住人のように私の視界から切り取られて見える。
彼の織り成す旋律の一つさえ零したくない私は、そっと目を閉じた。
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梅鉢朝桜 - 宿儺様ぁ…(泣) 愛してます、もう本当に…。素敵な作品をありがとうございます!!! (2023年4月26日 23時) (レス) @page43 id: 5a6192c453 (このIDを非表示/違反報告)
レナート(プロフ) - 好き……泣きました。。最高過ぎます…。こんな素晴らしい神作をありがとうございます…。 (2022年3月31日 2時) (レス) @page43 id: 3e48fe4f1f (このIDを非表示/違反報告)
ゆいゆい - なんか原作で泣いたことないのに二次創作で泣くのなんで?特に宿儺と夢主ちゃんが最後話していたところが感動しました!応援しています! (2021年8月10日 14時) (レス) id: de4752e106 (このIDを非表示/違反報告)
好きです大好きです - えっ、何でしょうもうなんか凄かったです(;;)色んな夢小説を拝見していましたが、こんな素晴らしい作品初めて会いました!!本当に素晴らしい作品だと思います、読んでいるうちに情景がすんなり頭に思い浮かんじゃいますよ!お2人が幸せになることを祈ってます(^^♪ (2021年7月23日 17時) (レス) id: fdb8e911e1 (このIDを非表示/違反報告)
睡眠時間 - 途中で全てに気づいた瞬間、グッと溢れ出てきた感動、それと同時に作者様の素晴らしさを目の当たりにした。まるで、全てを見透かされていたかのような、先回りされた感じ。←ポエマーしてみました 一言言うと、最高でした大好きですありがとうございました!!!! (2021年4月20日 0時) (レス) id: ee5607c705 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ゆき | 作成日時:2021年2月9日 22時