【北信介】別の人の女になったで【宮侑】

羞 ページ19

あの日、私が侑の家から出ていった日からずっと、侑は私に懲りず飽きず、連絡を送り続けている。毎日、欠かさず。

そして私も。あの日から毎日欠かさず既読をつけている。返信はしていないが。






今日は何だか調子が良かったで。サービスエース3回も決めたった!

サポーターに穴が空いた。練習した証拠や!

今日の夜ご飯はおからとひじきの煮物、ぶり大根。あとサラダもしっかり食べたで。

スーツにアイロンかけるのって、どえらい難しいんやな、全然できひんわ。

マフラーってどこにしまってたっけ。明日はタンスをぶちまける日にするわ。

ツーの時に突き指してしもうたわ。あかんなぁ、指立て伏せでもしようかいな。









ここはお悩み相談所かセラピーですか、って思ったけども。今私と侑を繋いでくれているのは、この一方的な交換日記しかないのだ。

あの家の匂いの服はもう無い。私が確かに侑が好きという根拠、侑の女だったという事実を証明することが出来るのは、私の記憶と、このLINEと、スマホに残る写真フォルダのみだ。


私は、侑がいつかLINEを送って来なくなる日が、とてつもなく怖かった。









お酒が入った男女。それが双方が愛し合っていなくなって、何かは起こる。

それを間違いや過ち、誤りと表すか。それとも記憶のどこかに封じて、忘れた事にしておくか。



だがしかし、北信介がそんな事をするはずがないだろう。.....とは言い切れず。







んぅ、とくぐもった声と、息継ぎの音。そして時々耳に入る水音。

どうしてこうなったのか、と聞かれれば。流れと答える他ない。

お酒が入った北さんにあの後散々口説かれて、いっそのこと侑の事さえ忘れてしまいたいと苦しんだ私が、そこのベッドに集まっただけ。









触れるだけだったキスが、口の中が火傷するんじゃないかってくらいの重たいキスに変わっていく。

もう子供じゃないから、私だって分かってる。ここで拒めば私はきっと永遠に侑に縛られる。

もう、北さんと結婚することを、拒否し続けられない事を、私は理解しないといけない。








ワインレッドのニットを脱がされれば、ブラにキャミソールだけ。可愛いの着ておいて良かった。

それでも侑以外の男性に見せたことなど無かったから、恥ずかしさ一心で顔が下向く。




「Aさん、ええの」

「ええの、って聞かれたらあかんって言いたくなります。...でも、私はもう北さんの女ですから」





そうはにかめば、またキスが落ちてくる。


そういうことだ、もう私は北さんの女だ。

嘘→←華

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す