人間洗浄機３

日常118　崩れる瞬間 ページ45

＿A！
誰かが少女を呼ぶ声がする。
何度目の呼びかけだろうか。少女はその声に反応して意識が戻る。

「…ここは、何処だっけ。」

少女のか細い声が響く。

薄く開けた目で少女は辺りを見回す。
薄暗く、コンクリートの床が冷たい。
どうやらここはどこかの廃墟であるらしい。
少女の名を呼んだのは絢子だった。泣きそうな顔で必死に少女を起こしてくれていたのだ。

足を動かそうとしたが動かない。
縛られているようだ。

「良かった！目が覚めて。」

「ありが…ごほっ。」

少女が声を出そうとすると喉が痛んだ。
思うように声が出ず、少女は喉に手をやる。

＿そうだ、私・・・

時刻はさかのぼること三時間前。


「あ〜、あと20分で出ないとだね。」

「だな〜。次英語だろ？怠いわ…」

儀晴の部屋で時間を潰す三人。
しかし、少女はどこかよそよそしかった。
見つけてしまったのだ。枕カバーの内側に＜怪しい錠剤＞を。

一年半ほど仲良くしていた儀晴が…信じたくなかったが証拠を見つけてしまった。
少女は今まで気が付かなかった自分が不甲斐なかった。

少女が儀晴の家から早めに出ることを提案しようとした時だ。
儀晴がまじめな顔で口を開いた。

「…なぁ、お前ら見たんだろ？」

その一言で少女は全てを理解した。
信頼が崩れる瞬間とはあっけない。今まで一緒にいた儀晴とはまるで別人の男が目の前にいた。

知っているはずなのに知らない。吐き気がした。
それと同時にこれ以上ここには居てはいけない、そう感じ取った少女。

少女はまだ理解できていない絢子の手を引き部屋からでようとするが体が思うように動かない。
＿重たい。
急に眠気が少女を襲う。
儀晴が出した飲み物に睡眠薬が入っていたようだ。
絢子を見るが、彼女は既に眠ってしまっている。
少女は儀晴を睨んで言う

「…どうして？」

「ヨコハマの警察にリークしたのはお前だろ？」

「…がはっ。」

儀晴がなかなか眠らない少女に苛立ち、少女の首を絞める。
少女は息が上手くできず、必死に儀晴の手首を握り抵抗するが、力が出ない。
涙を流す少女。
最期に見たのは、怒り狂った少女の知らない男(儀晴)だった。


＿私、儀晴に首を絞められたんだっけ。…生きてた。

少女は何を言うわけでもなく、震える自身の身体を縮める。
絢子は、縮まったまま震える少女を抱きしめた。

二人とも信じたくなかったのだ。
自分の友達が悪事を働いていたなんて。

二人の目から涙が零れた。

それと同時に扉が開いた。

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