検索窓
今日:19 hit、昨日:188 hit、合計:12,327 hit

最期まで ページ42

(・・・動け。体、動いて。お願い。)

みんなまだ戦っている。

気配でわかる。

気づけば日が昇り始めているが、無惨がまだ生きている。

Aの刀はまだ赫い。

突き刺せば、無惨を弱体化させられるはず。


ズリズリと這って進む。

無惨が見えた。

大きな赤ん坊の姿だ。

ゴウと音を立て、顔が地面にめり込んだ。

潜ろうとしている。

ここまで来ても、まだ生きようとしているのだ。


(体に酸素を巡らせる。筋肉に、力を溜める。)

あと一回。

あと一回なら動ける。

技を出せる。

『玻璃の呼吸 陸の型 凍玻璃突き』

爆発的な速さで、赤ん坊の体に刀を突き刺した。

反動で後ろに倒れる。

刀から手が離れた。

「ギャアッ」

無惨が声を上げる。

日の光に灼けた体がボロボロと崩れて行った。



歓声が上がった。

ウオオオオと湧く鬼殺隊。

Aは隠たちに、建物の間に運ばれる。

逼迫した雰囲気だった。

必死で手当てしてくれている。

視界が霞む。


(もう感覚がないや。私もうすぐ死ぬみたい。)


涙を浮かべて名前を呼び続けてくれている隠には申し訳ないが、最後まで動けたことが奇跡なくらいだ。

二回目の衝撃波で即死していてもおかしくなかった。


(師範、どこだろう。師範に会いたいなあ。)


もう助からないから、他の者の救護を。

そう伝えられないのは、まだ未練があるから。

最後に冨岡に会うまでは、なんとか生きていたい。


日が昇りきったらしい。

ぼやけた景色が明るくなった。

まだ冨岡は現れない。

(どうか、師範は・・・)

意識を手放そうとしたとき、名前を呼ばれた。


「A!」


目の前で水色の瞳が濡れていた。

口元が歪んでいる。

打ちのめされたような冨岡に、Aはそっと手を伸ばした。

『師範・・・勝てましたか?』


「ああ全て、終わった。」


冨岡は優しくAの体を起こして抱きしめた。

痛みも感じない体に、温もりだけが伝わる。

不意に輪郭が揺らいだ。

瞳の水色も黒髪も、揺れてぐちゃぐちゃになってしまう。


(ああもう、泣くな私。師範の顔が見えないじゃない。)


冨岡が温かい手で、そっと涙を拭ってくれた。

ぼんやり霞んだ視界だが、滲んではいない。

冨岡の左頬に痣があった。

(そっかぁ。・・・じゃあ師範は、おじいちゃんになるまでは、生きられないんだ。)

だけどなぁ、とA。

緩慢になった思考を巡らせた。

ありがとう→←待って



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (39 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
103人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 冨岡義勇 , 愛され
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ひかる(プロフ) - ミユさん» ありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです(*^^*) (5月7日 7時) (レス) @page42 id: c4c9e482b4 (このIDを非表示/違反報告)
ミユ(プロフ) - 普段小説などで泣かないのですが、大泣きしました。この作品大好きです。 (5月6日 22時) (レス) @page45 id: 14f11f958d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ひかる | 作成日時:2024年3月9日 9時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。