怒れよ 沖田side ページ45
「私は、貴方の隣に居ますから」
それは、本来なら俺なんかには受け取る権利のない言葉。Aの想いから目を逸らし、背を向けて、逃げ続けていた俺なんかが、貰っていいはずのない言葉だ。俺は、本当の本当に、最低なことをAにしたのだ。散々してきたのだ。きっとAは、傷付いているはずなんだ。傷付かない訳がない。両手を握り締めて、歯を食い縛ってしまうような苦しみを、俺は与えてしまっていたはずなんだ。護りたい護りたい、傷付いて欲しくない、傷付けたくない。そんな俺のエゴ自体がAを傷付けていたのに、こんなことをした俺が、こんな言葉をかけてもらえる理由なんて、何もないのに。
──抱き締められる理由なんて、何もないのに。
Aの手のひらが、俺の背中に回っている。俺を自身の方へと引き寄せるように。離れてしまわないようにしているみたいに、ギュッと抱き寄せられている。思い返してみれば、Aから抱き締めてくることは、これが初めてなのではないだろうか。俺は呆然と立ち尽くしながら、そんなことを思う。
なんて、暖かいんだろう。なんて、優しい体温なんだろう。俺よりも身長も何もかも小さいのに、Aの両腕はまるで俺のことを護るように、俺を包み込んでいる。目が、眩みそうになる。
俺には、こんな風に優しくされる権利はない。優しさに甘えるなんて、許されていない。許されてなんか、いないんだ。
けれど、俺は。俺は情けないくらいに弱くて、臆病で、ワガママだから。この両腕から。この体温から、抜け出せやしなくて。
その言葉で、どうしようもなく安心してしまうんだ。
「…ちょっとは、怒れよ…」
「怒ってほしいのですか?」
「普通怒るだろ」
「…じゃあ、コラ」
「…ふ、」
Aが「コラ」と。俺の胸板に顔を埋めてはくぐもった声でそう呟きながら、ポカ、と俺の背中を軽く叩いたので、それがおかしくなって、つい吹き出してしまった。気が抜けてしまうくらいに。今まで思い込んで、背負い込んでいたのが、馬鹿らしく思えてしまうくらいに。クツクツと笑いながら、俺はAを抱き締め返した。
Aの柔らかな髪を撫でて、深く息を吸い込んでは吐き出した。溜め息とは別物の呼吸だった。俺の中で溜まっていた重たく黒い何かを空気中にすべて放ってしまうように。
「…ありがとな」
俺が呟くと、Aはひとつ頷いて。それから俺達は、何を言うでもなく、暫くの間こうして抱き締め合っていた。
俺は、もう逃げない。溢れ返るような愛しさの中で、そう今一度誓った。
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樹里 - 今回も陽太くんかっわいいっ!!うちの弟もこうだったらなぁ〜 あと、全然関係ないんですけど、名探偵コナンに沖田総司っていう人が出ててめっちゃびっくりしました。ちょっとパクられたような気がしたんで、ソッコーでコレ読みました(笑) (2018年10月7日 18時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 樹里(元茉莉華)さん» 樹里さん!お久し振りです!コメントありがとうございます!いい感じのところですね〜私もここらへんは苦戦しつつも書けるときはとことん楽しんでいたので、うまいこと盛り上げられたらいいなと思います!着実に成長していく二人をお見のがしなく!(笑)頑張ります! (2018年9月26日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
樹里(元茉莉華) - ピピコさんお久しぶりです! なんかいい感じのとこですねっ!! 更新楽しみにしてます! (2018年9月25日 17時) (レス) id: c11197eaa9 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - ヒタキさん» ヒタキさん!初めまして!ありがとうございます!いっぱい読んでださってるんですね…!すごく嬉しいです!何度も読み返してもらえるようないいお話が書けていたらいいなと思います!これからもドキドキワクワクして貰えるように頑張っていきます!! (2018年9月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ヒタキ - こんばんは!初コメさせていただきました。ピピコさんのこの小説本当に大好きで何回も読ませてもらっています!!いつもドキドキワクワクです。これからも応援しています^^ (2018年9月6日 23時) (レス) id: 130f1442ec (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2018年6月15日 19時