唐突 ページ47
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高校の頃、俺たちは世界を共有していた。違う視点で、同じ光景を見ていた。だが、今は違う。俺たちは大人になった。俺と朝原さんでは、全く違う光景を見ている。加えて会える機会が減って、それを共有することもできない。
俺はきっとずっと怖かったのだ。朝原さんが俺の知らない誰かによって違う人になってしまうような感覚が。
「ごめんな、朝原さんが変わってしまうと思うたら怖いんや。ほら、朝原さんよく笑うようになったやろ、そういうの」
あーもう、かっこ悪、と声が漏れた。
俺がこういえば、朝原さんは大抵「宮はちょっと変わってるってずっと思ってたよ」と返す。この一連のやり取りは、俺たちの高校時代からの一種十八番みたいなものだ。
だから今回もそんな言葉が返ってくると思っていたのに。耳に飛び込んだのは、少し怒ったような声だった。
「宮はかっこいいよ」
「なんで褒めながらキレとるん……?」
その言葉に返事はなく、朝原さんは何事か考え込むようにむっつりと黙り込んだ。暫くそうしていた後、ぴんと背筋を伸ばす。俺もつられて姿勢を正した。
「宮」
「はい」
彼女の声は真剣だった。俺もつい緊張気味に返す。
「結婚しよう」
「はい。……はい?」
相変わらず至って真剣なそれ。反射的に色良い返事をしてから、何かがおかしいと気が付いた。
「……朝原さん、結婚の意味わかっとる?」
「婚姻を結ぶこと」
「うーん、そうなんやけどな?そうやなくてな?」
朝原さんの瞳からはなにも読めない。真意が分からない俺は混乱するばかりだ。
「私、別によく笑うようになったわけじゃないよ」
「昔はもっと無表情やったろ?」
「ううん、今でも表情筋硬いねって言われる。そんなこと言うの、宮だけ。そう思うんだったら、一緒にいて宮が私のことに聡くなったんだと思う」
意表を突かれて言葉に詰まる。
薄く化粧を施して、それでも変わらない、圧の強い目。それが逸らされる気配はない。彼女が畳みかけた。
「変わるって、多分悪いことばかりじゃないよ。でも宮の言ってることも分かる。私も不安だから」
「不安?朝原さんが?」
「……宮、昔から私のことサイボーグか何かと思ってない?」
サイボーグとまではいかなくとも、朝原さんはいつも泰然としていて、不安や動揺からは程遠い人間に見える。けれど、俺は朝原さんの言葉にやけに納得してしまった。
朝原さんが少し拗ねたような表情をしているのが分かる。……こういうことか。
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時