真綿の策略【宮侑】

そういうところがマイペース ページ46

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　下心だったんだよ、と。そう言う朝原さんは、その言葉の意味には似合わない清々しい顔だった。彼女の性格とはおおよそ乖離した言葉は、どうもすとんと腑に落ちない。

「雑誌とか、試合とか、宮がいるから見てたの。でも、今ではバレーボール自体が好きになった。宮が好きなものを好きになれて嬉しい」
「……俺、朝原さんのそういうところ好きや」
「大袈裟」

　朝原さんはそう言って笑うけれど、俺は真剣だ。正直に事の顛末を打ち明け、真情を吐露できるのは素直に好ましい。
　それに、朝原さんは自分の世界を確立している人だ。好きなものは好きと言えるし、好きでないものを好きと無理に虚勢を張ることがない。そんな彼女と何かを共有できるのは嬉しかった。

「大袈裟ちゃうよ、ほんまに好き」

　軽く冗談のようにはなったつもりだったその言葉は、予想外に深刻な響きを持って響いた。それはまるで、これまで静かだった水面に投げ込まれた小石のようで。飛び散った雫を誤魔化そうとする俺を、朝原さんが遮った。

「宮」
「ちゃうねん、いやちゃうくはないけど」
「宮！」

　決して怒鳴るような声量ではなかったけれど、朝原さんの凛としてよく通る声には迫力がある。真っ直ぐな光を湛えた彼女の瞳が、こちらをひたと見据えていた。

「帰り道から思ってたんだけど、宮、なにか気になることでもあるの？」
「……そう見えたん？」
「うん。私も楽しかったから気のせいかと思ってたけど、やけにテンションが高かったし。徹夜明けのゴリラみたいな感じだった」
「うん。……うん？ごめん、分からへん」

　本好きゆえか、朝原さんは時折独特な表現をする。罵られた気がするのだが、気のせいだろうか。

「あっ、そう、そうだ。空元気。何かから目を背けてる感じだった」
「そんで徹夜明けのゴリラ……！？」
「ごめん忘れて」
「忘れられへんわ」

　なんやねん、と肩の力が抜けた。朝原さんは俺を脱力させる天才だ。
　それと同時に、あの時感じた胸のしこりを打ち明けてしまおうと思う。何か抱えていることを、彼女はお見通しなのだから。

「あんな、朝原さん。俺、迎えに行ってんとき、朝原さんが男の人と一緒に出てきたのを見たんや。浮気を疑うとるわけやないけど、やっぱ不安になったっちゅうか……ほら、今はなかなか会えへんやろ？」

　俺たちは変わる。どんどん、変わる。それは周りの環境も、俺たち自身もだ。

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