ただいまとおかえり ページ45
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なるほど、と彼女はへらりと口元を緩ませた。
「似合ってるね、眼鏡」
「せやろ?朝原さんもスーツ似合ってるで」
「そうかな、まだスーツに着られてるようなものだよ」
恐らく、ファンと遭遇する可能性を考慮してのことだろう。繋がらない手と手を少し寂しく思いながら、それでも俺は楽しかった。なんせ、久しぶりの朝原さんである。二人でこうして歩きたくて、俺は車を置いて徒歩でここまで来たのだ。
週末の街は誰も彼もどこか浮き足立っている。その空気に当てられながら、他愛も無い話を交わしつつ道を進んだ。俺は練習をこなしたあとだし、朝原さんだって一週間会社に通っていたのに、馬鹿みたいに体が軽い。
「ただいまー!」
「おかえりなさい」
朝原さんが家の扉を開けると同時に、特に何も考えずに発した一言。それに返事が返ってきて、また馬鹿みたいに嬉しくなった。
ずっと双子の片割れと両親と四人で暮らしてきた。自立して一人暮らしを始めた時はせいせいするとまで思っていたが、気持ちが塞いでいるときの一人の部屋は寒々しい。最近は自分以外の体温がある家はいいと、そう思う。
「着替えてくるね。くつろいでて」
朝原さんが自室に引っ込み、俺は通されたリビングを手持ち無沙汰に見渡す。決して広くないそこは相変わらず綺麗に整頓されていた。
ソファの端に座る。目の前にはは大きな本棚。それはもう、全てが小さく纏まったここには不釣り合いなくらいの大きさだ。そんな棚の二段目、雑誌の集団が目に付いた。
朝原さんは自他共に認める読書家だ。本棚にはハードカバーから文庫本、有名どころから聞いたことも無いようなタイトルまで、様々な本が陳列されている。
しかし、その意欲が雑誌の類いに向けられることは無かった。少なくとも今までは。
「お待たせ。そんなに端に座らなくてもいいのに」
ラフな格好に着替えた朝原さんが隣に腰を下ろす。何見てるの、と少し幼い口調で顔を覗き込んだ。
「あれ、ファッション誌やろ?珍しいと思って」
彼女はしばらく怪訝そうにして、それからふっと笑った。
「読んでみる?」
「ん?ええよ、俺にはよく分からへんし」
「まあそう言わずに」
棚から引き抜いて手渡されたのは、見慣れた月刊のバレーボール雑誌だった。
てっきり綺麗に着飾ったモデルの表紙を手渡されるものだと思っていたので、あっけに取られて黙り込む。朝原さんがしてやったりという顔をした。
そういうところがマイペース→←どうやら変わってしまったらしい
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時