乙女心と夏の風 ページ39
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朝原さんを視認した瞬間、俺は叫び声をあげていた。
「着替えとるとこなんやけど!?」
「えっ、……本当だ」
俺はまだだらしなくシャツのボタンを開けただけの格好だった。慌ててシャツを掻き合わせる。乙女か、と誰かが呟いたのはこの際無視する。
「まじまじと見んといてくれるぅ!?」
「あ、ごめん。一旦出ていくから、着替え終わったら呼んで」
朝原さんが部室から出るのと同時に、治が戻ってきた。扉が完全に閉じたのを確認してからいそいそと着替え始めた俺に、あいかわらず冷めた目で言葉をかける。
「連れてきたで。正論パンチ炸裂する前に解決せえや」
「……ようおったな、朝原さん。部活入っとらんのに」
色々と言いたいことはあるが、ぐっと抑えて問う。この時間になると、帰宅部は大抵もう下校してしまっているのだ。
「朝原さん、この時間は大抵図書室におるで。知らんの?」
「……ほーん。へーえ」
「知らんかったんやな」
なんで俺よりよく知ってやがる。このやろう。
そうこうしているうちに外がにわかに騒がしくなってきた。ほかの部員が着替えに来たのだろう。
「侑、お客さんやで。朝原さん」
赤サンが扉からひょこりと顔を覗かせる。あとでからかってやろうという表情だ。隣には朝原さんがいる。
「宮、着替え終わった?少し出られる?」
「ええよー」
練習始まるまでには戻ります、と北さんに一礼して部室を出る。朝原さんは何やら部室の中の誰かにひらりと手を振った。
「案内とかありがとう、治くん」
……治くん?
ぴき、と固まる俺の視界に、面倒くさそうに、けれど確かに手を振り返す片割れの姿が入った。
「……はあ?」
「どうしたの宮、行かないの?」
「行く……けど、はあ!?」
俺の変化に気付いているのかいないのか、朝原さんはてくてくと歩いていく。慌てて背中を追いかけた。
「いつもの所でいい?」
「ええけど!はあ!?」
「……怒ってる?」
ピタリ、朝原さんの足が止まる。俺を見上げる顔には少しの怯えが見えた。
「……ごめんね」
「……いや、俺こそ。怒ってへんよ」
俺と朝原さんが付き合い始めて、まだ二、三週間しか経っていない。それは即ち、俺がブチ切れたあの日からまだあまり時間が経っていないということだ。そんな素振りは見せないが、俺が朝原さんに植え付けてしまった傷が癒えているはずもない。
いつもの所――校舎裏のベンチに揃って腰を下ろす。夏の蒸れた風が頬を撫でた。
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時