無自覚少女漫画ワールド ページ38
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放課後、まだ人がまばらな部室。俺はベンチで頭を抱えていた。
「侑、そろそろ北さんたち来るよ」
角名の言葉に、ようやくのろのろと着替え始める。北さんの正論パンチは怖い。それでも、口から時折漏れるうめき声は止められなかった。
「なに、うるさいなあ」
「侑、昼からずっと元気ないよな?」
顔をしかめる角名の横から、心配そうな銀がひょこりと顔を覗かせる。治は察しがついているのか、半目でシャツのボタンを黙々と外していた。
「……朝原さんが初めてじゃなかったらどないしよ」
「は?」
ここまで心底不可解そうな角名の声は後にも先にもない。完全に宇宙人を見る目だった。
「え、昼休みのあれの話?」
「そ。分かっとるよ、下らんやろ。俺だって初めてとちゃうし」
投げやりな俺の言葉を聞いて、銀が困ったような顔をした。困らせんなや、と治が吐き捨てたのですかさず臨戦態勢に入る。
「気になるもんは気になるやろが!そういうのに疎い朝原さんがいきなりしてきて、しかもあの余裕っぷりやぞ!?」
「ねちっこい男やな、侑は朝原さんの何なん?朝原さんが初めてだろうがそうじゃなかろうが、過去捕らわれたたまんまやとそのうち捨てられるで」
ぐうの音も出ない。シャツを脱ぎかけたままの間抜けな格好の俺を冷たい目で一瞥して、治は部室を出て行った。
「珍し、治が低体温だ」
「ほんまやな、いつもはがなり立てるのに」
「侑の面倒くささにあきれてるんじゃない?」
俺の味方は誰もおらんのか。泣くぞ。
分かってはいる、子供じみた考えなのだ。第一、自分が初めてではないのに、相手にだけはそれを求めるのはフェアじゃない。勝手だ。
「……そんくらい好きなんやけどなぁ……」
「うわ、うっわ」
「ごちそうさま……」
ぽつりと零れた言葉に、二人がひきつった顔をする。俺もそんな顔をしていると思う。まさかこんなセリフを吐くようになるとは。朝原さんの無自覚少女漫画ワールドに引き込まれたとしか思えない。
「人って変わるもんやな……」
「銀、宇宙と交信しないで。分かるけど」
「ちょっ恥ずかしなってきたわ、やめやめ。アランくんが穴空いたパンツはいてた話でもせん?」
なにそれ、と角名がすぐに興味を示す。銀も少しそわっとしたようだ。しめしめと思いつつ、続きを話そうと口を開いた時、部室に場違いな高い声が響いた。
「宮」
たった一声でも分かる、聞きなれたそれ。振り向いた先には、案の定朝原さんがいた。
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時