朝原さんとゆかいな仲間たち ページ36
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最近、朝原さんはよくスマホを眺めては頬を緩ませている。そこに表示された連絡先は明らかに以前より増えていて、それが嬉しいのだ。
一週間前に唐揚げをたかられたことをきっかけに、朝原さんは治と仲良くなったらしい。そしてそこから、銀や角名とも連絡先を交換したと語っていた。
「なあ、朝原さん」
「なあに?」
「んっ」
ぱっと顔を上げた朝原さんの、その柔らかな声が可愛くて。にやけそうになったのを、慌てて空咳でごまかした。
危ない、危うくだらしなく緩んだ顔でなんでもあらへんよとか言ってしまうところだった。俺は怒っているのである。表情筋を引き締めた。
「朝原さん」
「はい」
不穏な空気を察したのか、こちらをじっと見つめるその瞳は、相変らず零れてしまいそうなほどに大きい。蒸れた風が頬を撫でる。
「俺にも構ってや!」
「……え?」
朝原さんは何が何だか分からないというような顔だ。勢いだけで言ったような言葉が、今更ながら恥ずかしくなってきた。
「待ってそんな真顔で見つめんといて、恥ずかしいやろ!」
「ご、ごめん」
原因は朝原さんの態度にある。付き合い始めたばかりで、こうして昼休みに二人きりでいるというのに、あまりにそっけないのだ。
分かっている、朝原さんはこういうことに疎いのだ。しかし、何もずっと携帯を眺めていなくてもいいじゃないか。
朝原さんは何も言わず、ただこちらを見ている。ここは前にも二人できたことのある校舎裏で、校舎の影で涼しいはずなのに、はっきりわかるほど顔が熱くなってきた。視線に耐えられず、俺は俯いて顔を隠した。
「宮、こっち向いて」
夏だというのにひんやりと冷たい朝原さんの掌が、俺の頬に添えられる。それに導かれるように顔を上げた瞬間、何か柔らかいものが俺の唇に当たった。
朝原さんの顔が離れていくのを、俺はぽかんと見ていた。数秒経ってようやく事態が理解できた俺は、声にならない叫び声をあげてベンチから転げ落ちていた。
「宮、大丈夫!?」
「な、なんで、急に、」
俺を案ずる声にもまともに応答できない。ああ、と朝原さんは腕を組んだ。
「……宮、可愛いなって思って。そうしたら、したくなった、から?」
勝てない。俺は唸った。
この瞬間、朝原さんから少女漫画の主人公の座を取り戻すことが俺の目標になった。そう宣言すると、変なのと笑って手を差し伸べてくれた朝原さんにすでに敗北の予感がするが、目を背けることにする。
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時