「そういうこと」で済ませないで ページ30
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「はあ!?」
驚いた拍子に尻もちをついた。そのまま勢いよく後ずさる。
「宮、静かに。ここ、入っちゃダメなんじゃないの?鍵かかってたし」
「うんせやな!ごめん!」
混乱を極めている俺とは対照的に、朝原さんは至って冷静だった。しーっ、と立てた人差し指を口元に当てる。なんだか、その仕草を見ていられない。
「なんか、遠い」
俺が後ずさった距離を見て、朝原さんが苦笑する。空き教室だけあって床には薄く埃が積もっていて、後ずさった箇所が道のようになっていた。しかし、そんなことを気にしている余裕はない。
「は?俺、いや、は?」
理解が追いつかない。そうなのだろうか。そんな気もしたし、違う気もした。ああ、なんだこれ、体中が熱い。
「あのね、宮。私は宮が好きだよ」
頭の中で何かが弾けた。同時に、そのはにかんだ表情を見て、何かがすとんと腑に落ちたのだ。
俺が朝原さんの前では大人しかったのも、北さんとの関係を疑ったのも、彼女の言葉にやけに照れてしまうのも、可愛いと思ったのも、一度好きだと言われたとき動揺してしまったのも、全部全部。そういうことだったのだ。最後に至っては、友だちだからと言われて落胆すらしていた気がする。
自覚したとたんに脱力してしまって、俺は力なく顔を覆った。
「あーもう、カッコ悪……」
「宮はちょっと変わってるなってずっと思ってるよ」
「せやからかっこいいって言ってやぁ……」
うそうそ、と朝原さんが笑う。
「返事、聞かせてほしいな」
「分かっとるやろ?」
「ちょっと、自信ない。それに、宮に言葉にしてほしい」
朝原さんは意地悪だ。でも、態度で示すなんてことが通用しないことくらい、俺でも分かる。息を大きく吸い込んで、覚悟を決めた。
ああ、本当にかっこ悪い。場所は埃だらけの空き教室で、当然制服は汚れている。相変らず、少女漫画のヒロインポジションはどちらかというと俺だし。頭にきて無理やりここに連れ込んだのだって最低だ。置くタイミングを失ったのだろう、よく見ると朝原さんの手には弁当の入った袋が握られていた。
「……俺も好きやで、朝原さん」
「……えへへ」
「もしかしてにやけとる?」
「うん、実は」
見たことのないような、ふにゃふにゃの顔だった。なんだか俺の方まで表情が緩む。
不意に、腹から大きな音がする。朝原さんと俺、同時に。そう言えば今はお昼時だった。色気のなさに顔を見合わせて笑う。なんて俺たちらしい!
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時