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猫の毛皮も擦り切れる ページ28


 その時は唐突にやってきた。

「朝原さ、」

 昼休憩の時間だった。いつものメンバーで昼食を食べようと席を立つ。朝原さんもまた、そうして席を立ったのだろう。机と机の隙間で出くわした。
 ふと、彼女と目が合う。危うくぶつかりそうになったからか、ここ数週間強情にこちらを向かなかった大きな瞳が見えた。目が合うのも、こんなに至近距離にいるのも久しぶりだ。浮かれて話しかけようとして、すぐに目を逸らされる。その瞬間、俺の中で何かが切れる音がした。

「……ええ加減にせぇよ」

 吐き捨てた声は、自分でも意外なくらいに低かった。朝原さんの身体が強張る。しまった、と思ったけれど、もう止める気にもならなかった。
 不穏な空気を感じ取ったのか、つい先ほどまで賑やかだった教室がしんと静まり返る。銀の顔が視界に入った。固唾をのむような、心配しているような、焦っているような、そんな微妙な顔をしていた。多分、その場にいたほとんどがそんな表情をしていたんだろう。沸騰したような頭の片隅の妙に冷めた部分が、へんなかお、なんてぼんやり考えた。

「行くで」

 気が付くと俺は、朝原さんの腕を強引にとって教室を出ていた。どこにとかなんでとか、全く考えていない。ただ、俺たちが出た途端に教室の空気が少し弛緩したのを感じたから、これでよかったのだと思う。
 当然廊下にエアコンなんてものはなくて、なんだか空気が重い。蒸し暑く、生ぬるい空気が気持ち悪い。嫌な汗が一筋、背中をつうっと伝っていった。

 何も考えないままずんずんと進む。朝原さんは大人しく付いてきた。行きついたのは空き教室で、俺はここの鍵が壊れていることを知っている。
 鍵を外してするりと入り込んで、思い出したように朝原さんの手を離した。すると、彼女はへなへなと座り込んでしまう。驚いて顔を見て、俺は頭から冷水をぶちまけられた気分になった。
 彼女の顔に浮かんでいたのは警戒と不信、そして何より怯え。見開かれた瞳に映る間抜け面の自分を見て、俺はようやく正気に戻ったのだ。

「……うああ、ごめん、ごめんな、朝原さん」

 誰だって怖いだろう、自分より三十センチ近く大きい男に無理やり引っ張られて、こんな場所に連れてこられたのだ。ただでさえ、今ままでの俺は朝原さんの前では異様に大人しかったというのに。彼女に冗談でだって凄んだことはない。
 ひたすら謝りながら、彼女と目線が近くなるように屈む。背中の汗が急激に冷えていった。

爆弾と土下座→←隣のギャル系女子さん



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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時

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