あみだくじとヘアピン ページ24
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油断していた、としか言いようがない。俺は、すっかりその存在を忘れていた。
「席替えするでー」
俺にとってのショートホームルームは、部活が始まるのを待ち受ける時間だ。担任の話なんざまともに聞いちゃいない。しかし、今日はどうだろう。俺は耳に飛び込んできた一言を信じられず、担任を凝視していた。
「宮、先生そろそろ眼力で殺されそうなんやけど」
「先生、さっきなんて? もっかい言ってくれん?」
「席替え」
「がっでむ!」
やかまし、と担任が顔をしかめる。無慈悲にもあみだくじが書かれた紙切れが前の席から回ってくる。
「もう残っとるの自分だけやで。明日の朝にでも結果発表するからなー」
ダルそうな態度の担任が教室を出ていく。クラスメイト達も各々動き始める。俺もいつもなら、いの一番に教室を飛び出しているはずだった。
「書かないの、宮」
紙切れを睨みつけている俺を見かねたのか、朝原さんが声をかける。俺は目線を上げないまま返事をした。
「書きたない。朝原さんと席が離れるの、嫌やもん」
小さく息をのむ音がして、その真意を探るべく顔を朝原さんに向けた。なぜか彼女は小さく微笑んでいる。形のいい唇が、ね、と俺を呼ぶ。
「ヘアピン、とっちゃおうか」
「え?ああ、頼むわ」
居心地がいいそれは妙になじんで、結局一日中この髪形だった。でも、流石に部活には付けていけない。激しく動くのでずり落ちてしまうだろうし、何より危険だ。
細い指がピンを丁寧に取り、俺の髪を滑っていく。少しの沈黙。沈黙すら心地よく感じられるくらいに、俺は朝原さんに心を許していた。
「宮、あのね」
沈黙を破ったのは朝原さんで、彼女は何かを言いあぐねているみたいだった。決心したように息を吸った次の瞬間、
「いい機会だと思う。私たち、距離を置こうか」
は、と間抜けな声が漏れる。数秒、それが自分のものだと分からなかったくらいには混乱していた。慌てて後ろに立っている朝原さんの顔を仰ぎ見ようとするも、頭をやんわり抑えられて、それは叶わなかった。
「ごめんね、わがまま言って。私、自分でも意外なくらいに欲張りだった。あんまり期待しちゃだめだと思うから」
だから、ごめんなさい。彼女は一息にそう言って、俺の手元から紙切れを取り上げた。
「これ、もう枠は一つしかないし、宮の分書いて提出してくるね」
荷物を抱えて、逃げるように教室を出ていく。そんな後姿を、俺はただぽかんと見送った。
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時