愉快犯ども ページ20
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気を取り直して先生も赤サンもそれに乗っかっとったんか、と呟くと、朝原さんはこちらを見上げて目を瞬かせた。
「乗っかったって?」
「二人にな、浅原さんと北さんが兄妹てほんまですか、て聞いてん。どっちも否定せんかったで」
朝原さんが深いため息を吐く。思い当たる節があるようで、ゆっくりとした動作で頭を抱えた。
「あー、『あの子にはいつか一矢報いてやろうと思ってた』って悪い顔してたの、それかあ……」
「いや、『先生らしく』はどこいったん……あ」
言いつつ自覚した。分かっていたことじゃないか、あの先生の風変わりなモットーは俺には適用されない。「先生らしく」を掲げる彼女にとって、馴れ馴れしい生徒は大敵なのだ。諦めた結果のあのフランクな態度なのだろうけど、多少なりとも鬱憤は溜まっていたのだろう。
「赤サンって?」
「ああ、バレー部の先輩なんやけど。赤木さん、ていうリベロの人」
もしかして、と恐る恐るという風に再びこちらを見上げる。否定してほしい、とでも言いたげに。
「下の名前は路成で、黒髪の目が大きい人だったりする……?」
「え、なんで分かったん?」
「何回か会ったことも、お話したこともあるから。あの人は……だめだ……」
相手が悪かった、と再び朝原さんは嘆息した。
酷い言われようだが否定はできない。三年生の中にあって、赤サンは唯一にして絶対の愉快犯だった。
面白そうなことには乗っかる主義だと、自らそう言っていたっけ。一年の頃の夏の合宿でははしゃぎすぎて信介に怒られたなあ、と懐かしそうに語ってくれたこともある。通りであの爆笑で、同意を求められた大耳さんは巻き込むなと言っていたわけだ。
「……怒ってる?」
「いや、怒ってへんよ」
確かに拍子抜けというか脱力はしているが、嘘の内容は小学生がついていそうな可愛らしいものだ。怒るに怒れない。
むしろ俺は感心していた。無表情であるからかもしれないが、彼らに嘘をついている様子はなかった。だからコロッと騙されてしまったのだ。治のプリンを食べているところを本人に目撃されて「食ってへん!」と嘘にもならないような嘘を吐く俺からしたら、二人の演技力に感服だ。
「あーほら、俺は距離が縮まったみたいで嬉しいで?」
まだ渋い顔をしている朝原さんにそう言うと、表情がぱっと明るくなった。朝原さんは無表情なようで、存外わかりやすい。もっともそれは、本当に距離が縮まったからかもしれなかった。
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せなけいこ - この夢主ちゃんの性格も、少女漫画のヒロインな宮侑もめっちゃ好きです!この作品を生んでくれてありがとうございます。性癖に刺さりまくりです!! (2020年9月18日 15時) (レス) id: ef980343e4 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» お返事が遅れてすみません!色々考えたのですが、本編はここで終わりにします。しかし私としても書きたいネタがまだたくさんあるので、そのうち別作品と纏めて短編集を出そうかと…。なので、気長に待ってくださると嬉しいです。 (2020年3月5日 1時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - さかきさん» ただ私がこの主人公もミヤツムも好きなので続いて欲しいっていう我儘なのですが…( ; ; )もし続きを書こうか少しでも考えてらっしゃるならぜひ見たいです…! (2020年3月2日 3時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
さかき(プロフ) - mimiさん» 初めまして、まず初めにご愛読ありがとうございます。ごめんなさい、話数の問題で断念したんですが、やっぱり終わりにしては歯切れが悪いですよね…!?もう少し何とかできないか検討してみます! (2020年3月2日 0時) (レス) id: d263cbf7f6 (このIDを非表示/違反報告)
mimi(プロフ) - はじめまして。こちらずっときゅんきゅんしながら読ませて頂いてました…!最後、終わりとなってますが完結なのでしょうか( ; ; )続きを楽しみにしてたので… (2020年3月1日 14時) (レス) id: 4447061f23 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さかき | 作成日時:2019年9月24日 23時