これが恋ではないのなら、【国見英】

《３２》 ページ39

『お前らを拗らせた張本人である俺が言うから、そりゃ信用ならないだろうけど。確かに青城に拘らなくたって、別にアイツを守れる奴も方法も沢山存在してると思う』

「……」

『でも仮にさ、その結果橋下が別の誰かとくっついて、お前はそれで納得すんの？』

「……できるわけないだろ」



その方があいつの為になるなんて、頭では嫌って程理解してるんだ。俺じゃなくて、もっと頼りがいある奴の隣にいれた方がいいって。

でも納得するのとは別問題、俺は絶対あいつが知らない奴と結ばれるのを祝福してやれない。だって、何年拗らせてると思ってるんだ。



『……よかった、お前まだ橋下の事好きなのな』

「悪いか」

『いいや？逆に安心……この流れで言うのも不躾だけど、中２の頃、本当に悪かった』



不意に始まったあの日の話、どうしたって体が強張ってしまう。あの日の絶望が、後悔が、Aの泣きそうな顔が脳内を過る。



『もう知ってると思うけど、俺あいつが好きだったんだ。それで……あー……』

「……Aが俺を好きで、俺もAが好き、それが嫌だったんだろ」

『え、何お前、橋下の気持ち知ってたの？』

「いや、当時は知らなかったよ。最近ちょっと……現在進行形で揉めてる」

『す、救いようがない……俺のせいだよな。許してほしいとは言わないけど、謝らせて』



確かにあの日の原因は、水瀬だったのかもしれない。でもきっと遅かれ早かれ何れは起きる話だった。俺にだって非はあるのだ。



『本当にごめんな……嫉妬だったんだ。俺ばっかりが失恋して、当の本人達が両片思い。タイミング的に、ぐわーって、気持ちが爆発して』

「うん」

『国見も、橋下も、好きだって言わないなら……俺に頂戴よって、思って、』

「……うん」

『……諦めて、ほしくて、』



中学２年生の、まだまだ幼い男が起こした、ちっぽけな過ちだった。嫉妬が膨れ上がった末、もうどうにもならなくなって。

ただそれが、思ったよりも拡大してしまった。三者三様に被害を受けて、皆それぞれ疎遠になって。今の今まで溝が深まっていく一方で。

謝罪と後悔を述べる水瀬の声には、何処か涙が滲んでいたように思う。



「……うん」

『……だから、さ。本当は俺がとやかく言う権利ないんだけど、頼むから……少しでもいいから、良い方向に進んでほしいんだよ。お前にも、橋下にも』



頼むから、と懇願するようなその声に、果たして俺は何と言えただろうか。

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