これが恋ではないのなら、【国見英】

《１０》 ページ17

『……』

『こんな事、言われても困るだろうけど』

『いや、いいよ』

『国見優し〜……最近仲良くなったんだけど、実は割と前から好きだった奴でさ。でもあいつには他に好きな奴いるんだって。しかもあいつ、俺の事これっぽっちも気付いてねえし』

『……』



こんな時、どう言えばいいんだろう。

なんて言えば、慰められるんだろう。

そんなの時と場合による。ある意味では答えのない問いかけだった。なのにそれを自分の中で何回もグルグルと繰り返したのを覚えている。

相変わらず、俺は今も昔も口下手なのだ。



『……』

『いや、沈黙』

『あ、悪い……』

『いーよ、言葉にしたら若干楽になった』

『……お前実はいい奴だよな』

『実はって何だよおい』



失恋という言葉がやけに頭にこだまする。

何をもって失恋になる？俺の場合は？失恋した後は？空っぽになった気持ちの後始末はどうすればいいんだ？

でもなぜだか、その水瀬の言葉を自身に被せて考えた。ズルズルと引っ張ってきてしまったAへの初恋は、このまま失恋になるんだろうか。今あるこの気持ちがいつかは消えて無くなるんだろうか。

……そんな日が、来るんだろうか。



『……俺も告るなり何なりしとけばよかったんだよな。今更後悔』

『……辛いな』

『そりゃそうだろ。だからさ、国見も好きな奴できたら後悔のないようになー』



おちゃらけた雰囲気で水瀬はそう言った。普段ならそれで笑って『はいはい』みたいな感じで終わるのに。

でもその時、何故か口からポロっと溢れたのだ。



『できたらというか、いるけどな』

『……え、まじで？』



小学生の時みたいに誤魔化せばよかったのに。

水瀬が先に自分の事を話してくれたからか警戒心がなくなっていたのか、もしくは自分自身発展を諦めていたからか。

というか、あんな未来は空像できなかったんだ。



『前話に出ただろ、橋下A……まあだからなんだって話だけど。俺なんか見込みもないし最近会ってもないから仲良いかすら怪しいし』



そのうち俺も失恋かな、なんて軽い口調で笑い話のノリで言ってしまった。

その時、口を噤んだ水瀬には気付けずに。





その俺の一言が

あの日(・・・)を作った主要因。

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