若宮隼人 ページ44
葵が弁護を担当したコンビニ強盗事件,木本の事件は再聴取を終え,初判は改めて来月ということになった。
留置所での会話内容と同じく,木本は真実を話し,無事松田への嫌疑は晴れたようだ。
木本自身の罪については,動機に至る経緯を交えた弁護に向け準備を進めているとともに,木本が店長に対する訴えを起こすことを決心したため,その訴訟も,言わば約束どおり葵が担当することになった。
慌ただしい状況ではあるが,
今日,葵は事務所を休み,杯戸町のある交差点に来ていた。
3月18日。
10年前,若宮隼人が交通事故で亡くなった現場である。
若宮隼人は,葵の4つ上の幼馴染だ。
幼少期に母を亡くし,兄姉のいない葵は,幼い頃から一人で留守番をすることが多かった。
警察官である父 景輔 (けいすけ)は男手一つで必死で面倒を見てくれていたが,事件があると家に帰れない日も多く,近所の若宮家に何かと世話になっていた。
若宮家は,大手電機メーカーで働く父親 守と専業主婦の母親 結子,そして長男である隼人の3人家族だった。
母親は明るく社交的な優しい人物で,
夕方に度々一人で帰路につく葵を見ながら,心配だから,と,父親の帰りが遅くなる時は家で預かりましょうか,と自ら提案してくれたのがきっかけで,度々世話になったのだ。
隼人は,やや大人しいながらも,母親のようにやはり優しい人物で,葵を妹のように可愛がってくれた。
その後,隼人の7つ下,つまり葵にとっては3つ下になる若宮家の次男 真人が生まれてからは,3人で良く同じ時間を過ごした。
葵は中学の頃から父の影響で警官を目指し,
隼人は同じく父親の影響で,電気工学に興味を持ち高校からは理系の道を進んでいた。
葵は,隼人から,
真人は2人から,勉強を教わりながら,
互いに悩みを相談しながら,
バカな話をしながら,
時には喧嘩をしながら,
兄妹のように育ったのだ。
ある事件をきっかけに,
隼人が苦しみ,そして命を落とすまでは。
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作者名:white12 | 作成日時:2019年7月1日 21時