漆黒の狗は黒の時代でも困っていたそうです5【文スト】【芥川成り代わり】

第百九十七話『今ノ君ヲ』 ページ40

『……だざっ……だざ……いさ……』



太｢……ゆっくり深呼吸して｣



『……っ､すぅ……はぁ……はぁ……』




太宰に云われて自分の呼吸が乱れていることに気づいた｡

太宰は芥川を抱きかかえて森と向き合う｡




太｢これ以上､彼女を傷つける行為はやめてください｣



森｢……すまないね｡そんなつもりじゃなかった｣




森は目を閉じて申し訳なさそうに云った｡
太宰は“ならば”と言葉を続ける｡




太｢織田作を救援するため､幹部級異能者の小隊を編成し
ミミック本部へ強襲をかける許可を頂けますね｣



『……太宰さん､僕……僕が……』




太宰は冷たい瞳から愛おしいものを見る瞳に変えて
芥川に視線を向ける｡




太｢……君は少し眠った方がいい｣



『……っ､嫌だ』




またポタリと涙が零れる｡

もう失いたくない

大切な人も大切な時間も

全て……




『……もう誰だって失いたくない……もう二度と……
だから､だから……お願いです､私(・)を……
彼の人のところに……行かせて……』




太宰は目を見開き､眉を顰めて首を振る｡




太｢今の君を行かせるわけにはいかない｣




芥川は顔を歪ませて嗚咽を漏らす｡




『……私はまた……また……誰も救えない……
この世界に……ずっと……囚われた……まま……』



太｢Aちゃん？｣




芥川は気を失うように眠ってしまった｡
太宰はギロリと森を睨む｡


暫く森と話し合うが時間が過ぎていくばかり｡



そして不意に森が手に持った封筒を見た｡

それからはっとして息を止めた｡




太｢その封筒は……｣




全てを理解して“そう云う事か”と呟いた｡
太宰は芥川を横抱きにしたまま森に背を向けた｡




太｢失礼します｣



森｢彼女を連れて何処へ行くのかね？｣



太｢織田作の許へ｣




顔を向けず､執務室の出口である扉の前まで太宰は歩いた｡


扉に手を伸ばした時､彼の背後で複数の音がした｡
金属がぶつかるような､小さな部品が噛み合うような音｡




太｢……｣




太宰はその音を聞いてぴたりと手を止めた｡

そして自らの失敗を悟り､目を閉じた｡


太宰の後ろには隣室から現れた
黒服の武装マフィア構成員が四人いた｡


全員が自動小銃を構え､銃口を太宰に向けている｡




『……ん……』



太｢……必ず､君を守るからね｣




太宰は優しい眼差しで芥川を見て､鋭い目で森を見た｡


森は先程と変わらぬ姿勢のまま､太宰に向けて微笑んでいた｡


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