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生活が戻り始めて安心した頃、オレは父と高校の進路のことで揉めた。頭はそんなに悪くなくてむしろそこそこ良かった。だから、この土地を離れて少し頭のいい大学に進みたかった。外国の文化について学ぼうかな、なんて思っていた。

けど、何を言っても父にオレの言いたいことは伝わらなくて、思わず感情的に叫んで泣いてしまった。

それが父の中の何かの引き金を引いたようだった。

泣いたオレの顔を見るなり、父はバッと立ち上がり、机の上にあったグラスを手に取り、反射的にオレにグラスの中の水をぶちまけた。驚きで声も出ず、呆然と父を見ると父は畏怖の表情を浮かべこちらを見ていた。



「 ハナ、やめてくれ、泣かないでくれ、 」


耳をぎゅっと手のひらで何も聞こえないように覆い、ガタガタと震え出す父。口からは母の名前を呼びながらやめてくれと何度も震えるか細い声で呟いていた。

オレは言葉が出なくなった。なんて言葉をかけたらいいのか、分からなくなっていた。思い出していたのは親戚のおっさんの「お母さんに似てきたな」の言葉だった。


父はオレを母と重ねて見ていた。
オレの姿ではなく、オレの姿を通してきっと母さんを見ていたのだろう。瞳の色も髪の色も父にそっくりなのによくもまあそんな器用なことをしたものだ。


高校は本当は遠くに行きたかった。
こんな父を置いていくことは出来ないと思い、オレは父を落ち着かせるためにぎこちなく笑った。そうすると過呼吸のような状態だった父が少しづつ落ち着いていくのが目に見えて分かった。


父はオレが笑わないとおかしくなってしまう。
オレを通して見ている、母さんが笑わないと父は生きていけないのだ。









オレは笑って生きていかなきゃいけない。
泣くのも悲しむのも許されないのだと悟った。
母がいつも笑っていたように、オレも笑わないと。







「 嗚呼、そんなに泣かないで。母さん。 」








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元素(プロフ) - CS提出ありがとうございます!気怠い警察官最高ですね……不備等ございませんのでこのまま受理させていただきます!今後も当企画をお楽しみください! (2022年6月22日 20時) (レス) @page9 id: 656d2fa00c (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:兎依 | 作成日時:2022年6月22日 13時

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