【深海のまち】世界を愛する瞬間に【 CS 】 (ページ19)

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"私がいなければ、ママは前みたいに笑っていてくれる。私がいなければ、パパはまた家にいてくれるようになる。"

そんな事実だけが、彼女の頭ではずっと回っていた。何も無い殺風景な病室で彼女はそんなことを考えてしまった。そんな中、ある日お見舞いに来た母が「私のせいで、あなたを不幸にしてしまった」と泣き出した。

ずっとずっと私は幸せだと思っていた。

病気だけど、父も母もいる。友達だって少ないけどいる。
今、ここで息をしてちゃんと生きている。

私は不幸じゃないよ、ママ。
私、自分がパパやママのせいで不幸になるくらいなら、
幸せな今、幸せだと思い込んだまま、雪が溶けていくように、そっと誰にも気付かれず、ここから消えてしまいたい。

母が帰った真夜中の病室を抜け出して、昔両親と一緒に来たことがある海まで歩いてくると、少しずつ海に体を沈めていった。太ももまでが海に沈んだ。冷たい。

友達と来る予定だったんだけどな、と思いながら自嘲するように口の端を上げて笑うと、大きな風が吹いた。反射的に瞑った目を開けると、彼女はそこに立っていた。淡いピンクと白の髪をなびかせたシスター。

本当に綺麗で、彼女は神様に見えた。

「あら、物好きね。こんな時間に海水浴なんて」

黙ったままの私に歩みを進める。彼女の細く白い指が、私の輪郭をなぞるよう滑る。
そして彼女がにっこりと笑い、そっと口を開いた

「ねぇ、"深海のまち"の噂は知っているかしら？」

彼女はただそばにいる人に笑っていて欲しかった。くだらない話で笑ってくれる友人が欲しかった。嫌々学校で勉強をしたかった。

冷たい水に体温が奪われてく感覚。少し怖くて瞳をぎゅっと閉じる。

様々な思いが交差する中、彼女が次に目を開けると目の前には、目を奪われてしまうほど美しい教会が目の前にあった。日の差し込む礼拝堂には祈りを捧げたまま、こちらに目をくれもしない修道女。

歩みを進めると、足音で彼女は振り返った。

［わたし、どうしたらいいんですか］

「そんな暗い顔してないでもっとたくさん笑って好きなものに囲まれて暮らしたらいいじゃない。ある意味第2の人生よ？」

スケッチブックの文字を見て、当たり前のように笑って言った修道女に、白兎は下を向いて、床にぼろぼろと涙を零しながらずっと頷いていた。

［私は、私の目に映るもの全部を愛していたい、
　誰かを愛して愛されて、ずっとずっと幸せでいたい］

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