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……しかし、なぜこんなことになっているのだろうか。
私たちはお互いに向かい合って、床に座りこんでいた。もし私に余裕があれば、みゃあ、と鳴いて相川さんにすり寄る二匹の猫ちゃんをゆっくりと眺めていただろう。
「えっと……?」
「んん……?」
都心のかなり大きなマンションに来て、相川さんの部屋だという場所に入って。
そして、現在。落ち着くために座ったのはいいものの、会話が出来ずに混乱している。
もともと私は人と話すのが得意ではない。それは相川さんも同じらしい。『混ぜるな気まずい』。私たちには、そんなレッテルを貼り付けるのが適当なのだろう。
やけくそになったら饒舌になるが、この状態で口を開けるほど私の神経は図太くない。相川さんと初めて会ったときは、あくまで例外だ。
「じ、自己紹介! 自己紹介、しよっか?」
「……もう、しませんでした?」
しかし声をかけられれば、返答を返すことはできる。私が苦手なのは、自分から話題を振るという行動だ。
「してないって。確かに僕の名前は言ったけど、まだそっちの名前は聞いてないもん」
「そうでしたっけ」
一度会話が始まると、あとは楽に喋れる。
自分でも面倒くさい性質だとは思うが、会話を始めるのが苦手なだけなので許してほしい。
「私の名前はAです。年は小六―――あー…、今年から中学生になりますね」
「え!? なんか喋り方からして、もっと年上だと思ってた……」
「よく言われます」
自分としては、大人ぶって話しているつもりはないのだが。
今まで年相応に友だちと遊ぶ、なんてことはなかった。私の友だちは本だったといっても過言ではない。そんなところが影響しているのだろうか。
「……あれ、そういえばAちゃんの名字は?」
「教えません」
即答すると、相川さんは目を見開いて「え!?」という。
「当たり前じゃないですか。名字知ったって意味ないと思いますし」
「えぇ、知りたい……」
この人って本当に成人男性なんだろうか。
おねだりのスキルがやけに高い気がする。いや、これはあざとい、と言うべきだろうか。……けれど、教える気は毛頭ない。
「教えません」
しょんぼりとした相川さんの顔を見て、再び相川さんが成人しているのか疑ってしまった。
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千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます!その後話も気になりますが、これ以上書き足すと蛇足になってしまいそうだったので…笑 たぶん夢主ちゃんは幸せに暮らしていると思います。想像の中でお楽しみいただけると幸いです! (2022年12月6日 19時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2021年10月13日 22時) (レス) @page38 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - いちごあめさん» コメントありがとうございます! この題名は中々インパクトありますよね笑。あわああ他の作品も見ていただけるんですか、ありがとうございます! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
いちごあめ - 完結おめでとうございます〜!!題名に釣られたんですけど目に入って本当に良かったなぁって感じてます、笑 他の作品も見させて頂きます( *´ワ`*) (2020年8月26日 21時) (レス) id: 6feff1c97c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» ありがとうございます! 時間があったら他の作品も読んでいただけるんですか!? めちゃくちゃ嬉しいです! 次作も一生懸命頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年7月4日 16時