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まだ少し重たい瞼をこすり、ふわぁ、と欠伸をする。
まあ当然だとは思うが、硬くて冷たい廃ビルの床で寝たのだから、体が痛い。
痛む体に鞭打つように叩くと、辺りを見回して起き上がった。
「んー、よく寝た」
周りには誰もいない。
昨日、やけにしつこかったあの男性ももう帰ったようだ。物音一つしない。
ただ、このままここにいれば、あの人がここへ来るのは間違いないだろう。それは昨日のしつこさを見ればわかる。
このまま飛び降りたらどうかなぁ、なんて考えが一瞬頭をかすめたが、もしあの人が、たいして時間も経たないうちに、飛び降りた私を見つけてしまったら、全てが水の泡だ。
空を見上げればそろそろ夜明け。電車の始発が出るのもこの時間帯だろう。
少しばかりほくそ笑んで、廃ビルの外にでた。
*
―――なのになんで、あなたがここにいる。
ようやく目的地である踏切に着いたのに、そこで遭遇したのは昨日のあの人。
偶然にもほどがあるだろう。神様はよっぽど私を死なせたくないらしい。
「えー…、なんで、ここにいるの?」
それを訊きたいのは私の方です。
ちょうど閉じてしまった踏切を前に、落胆する。
「ここに居るってことは、まだ飛び降りてないんだろうけど……」
まあ何十分かおきに確認しに行ったけど、ぐっすり眠っていたしね、と彼は笑う。
本当に確認しに来てたんだ、この暇人め。
「で、今は朝の確認に行こうとしてたんだけど……ここで会った、ねぇ」
「……」
ここまで来たら、もう沈黙だ。
勘の良さそうなこの人は、私がここへ来た理由も感づいているのだろう。
「えーっと、ちょうど今からここを始発が通るんだけど……、線路に飛び込み、とか考えてた?」
ガタン、ゴトン。漫画などではそう表現されるであろう音をたてて、私たちの前を電車が通り過ぎていく。
「……ほんと、あなた、お人好しにもほどがありますよね」
私が発したその言葉は、彼の予測が合っていることを表すのには充分で。
はぁ、と彼はため息を吐く。ため息を吐きたいのは私の方だって。
「とりあえず、僕の家来る?」
「はぁ?」
前言撤回。いや、撤回ではないかもしれない。この人はお人好し。
ただ、そこに新たな称号が追加された。―――頭がおかしい。つまり、あたおか。
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千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます!その後話も気になりますが、これ以上書き足すと蛇足になってしまいそうだったので…笑 たぶん夢主ちゃんは幸せに暮らしていると思います。想像の中でお楽しみいただけると幸いです! (2022年12月6日 19時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2021年10月13日 22時) (レス) @page38 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - いちごあめさん» コメントありがとうございます! この題名は中々インパクトありますよね笑。あわああ他の作品も見ていただけるんですか、ありがとうございます! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
いちごあめ - 完結おめでとうございます〜!!題名に釣られたんですけど目に入って本当に良かったなぁって感じてます、笑 他の作品も見させて頂きます( *´ワ`*) (2020年8月26日 21時) (レス) id: 6feff1c97c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» ありがとうございます! 時間があったら他の作品も読んでいただけるんですか!? めちゃくちゃ嬉しいです! 次作も一生懸命頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年7月4日 16時