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間宮さんがギュッと握り拳を固める。
普段、学校ではてきぱきとしていて、優秀な成績とともに、人間の鑑のような人格を見せている彼女には似合わないはずの行動に目を奪われた。
私としては、そっちの方が人間らしい気がするけれど。
「……なんで」
ようやく、小さく絞り出された言葉は掠れていて。みんなの前に立って、はきはきとものを言う間宮さんはそこにはいない。
「……私、頑張ってきたはずなのに。勉強もいっぱいしたし、運動だって。みんなのことを支えることだって出来る。そのはずなのに」
―――本当に見てほしい人には届かない。
その“見てほしい人”が誰なのかはすぐにわかった。私にわざわざ言うなんて、それくらいしか思いつかないし。
「……私、努力、してたよね?」
うん、してたね。
間宮さんが続けてきた努力は確実に実を結んでいるし、それに驕ったりもしない。単純に人間として、尊敬できる人だと思うよ。
そんな答えを間宮さんが望んでいないのはわかるけど。
「なんで、緒方さんは見てもらえてるの……? ……私、私のほうが……!」
少しずつ声が大きくなっていく。
感情を制御したような外面だけの笑みとは違う顔。……嫉妬と、怒りと、悲しみと……。あと、なにが混ざっているんだろうね。
間宮さんが息を大きく吸い込む。ひゅっと喉が鳴った。
「……あなたが、なにをしたっていうの!」
私はなにもしてないよ。ただ単純に、まふさんに見つけてもらっただけ。
でも、必死に頑張っていた間宮さんにはそれが理不尽に思えるのかな。なんの努力もしていないあなたが、どうして、って。
「……ねえ」
間宮さんのことを可哀想だな、って思う。
努力をしていたのに、私という、間宮さんが望んだものを持っている人が現れちゃった。間宮さんは、今までの自分に自信がもてなくなっているんだろうね。
……でも、そんな感情を上回ったのは、“怒り”。
「……お父さんが騙されて。騙した人は逃げていって。理不尽な境遇のはずなのに頼れる人はいなくって。どこにも自分の居場所はなくて。たった一つの場所に依存し続けて」
駄目だ、こんなこと言っちゃいけない。
自分勝手な言動を押しつけたりなんかしちゃいけない。
―――でも、言葉は止まんない。
「ねえ、間宮さん―――……私が、なにをしたっていうの?」
おんなじ言葉を返して、能面のような笑顔を間宮さんに向けた。
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千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます!その後話も気になりますが、これ以上書き足すと蛇足になってしまいそうだったので…笑 たぶん夢主ちゃんは幸せに暮らしていると思います。想像の中でお楽しみいただけると幸いです! (2022年12月6日 19時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2021年10月13日 22時) (レス) @page38 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - いちごあめさん» コメントありがとうございます! この題名は中々インパクトありますよね笑。あわああ他の作品も見ていただけるんですか、ありがとうございます! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
いちごあめ - 完結おめでとうございます〜!!題名に釣られたんですけど目に入って本当に良かったなぁって感じてます、笑 他の作品も見させて頂きます( *´ワ`*) (2020年8月26日 21時) (レス) id: 6feff1c97c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» ありがとうございます! 時間があったら他の作品も読んでいただけるんですか!? めちゃくちゃ嬉しいです! 次作も一生懸命頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年7月4日 16時