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「やめてください」
「え?」
物事が理解できていないらしいこの人に、一言一言ゆっくりと言い含めるように聞かせる。
「だから、警察呼ぶのはやめてくださいって」
「なんで?」
いや、今までの私の言動を見つめ直したらわかると思うんですが。
そう思っても、いちから説明するのは面倒なので、簡潔に要点だけ伝える。
「あの、私、飛び降りようとしていたんですよ? 警察なんか来たら、助かっちゃうかもしれないですか」
ただでさえ、飛び降りなんて確実性のない自死のしかたなのに。と、頬を膨らませる。
「あー…、だから、僕が居なくなってから飛び降りようとした、と?」
「正解です」
「ならいっそう、放っておくなんてできなくない?」
「はぁ?」
「いや、人が居なくなったら即座に飛び降りるつもりなんでしょ? 放っておく、だなんて出来ないって」
これはまた随分と面倒くさい。
お人好し。世間一般では歓迎されるであろうその性格は、今の私にとって、面倒くさい以外のなにものでもない。
「つまり、あなたは私が納得するまでここに居座るつもりですか?」
「うん、一応……」
語尾を濁した後、ちらりとこちらを見やる。
「まあ、いくら言っても納得してもらえないようだったら、警察に行くしかないだろうなぁ……」
随分と脅し文句を使うのが上手なようで。
言葉にならない皮肉を心の中で囁き、ため息を吐く。
いくらなんでも、まだ学生の女の子に成人男性なんて戦いだったら、成人男性が優位なのは当然のことだろう。
「……頑固だって、よく言われません?」
まあ、私の中ではもうあなたは頑固だと認定されましたよ。頭の中で、そんなことをぼやく。
これからどうするべきなのなだろうか。本来の予定通りだったら、こんなふうに頭を悩ますこともなかったはずなのに。
「……私に帰る場所はありませんよ」
「え、じゃあ……」
「でも、警察に行く気もありませんので」
廃ビルを見回す。
この場所で寝泊まりをしたのは一回や二回ではない。家に帰りたくなかったときには、いつもここへ来ていた。
「今日はここで寝ます。あなたも帰って良いですよ。言っておきますが、また飛び降りたりはしません」
心配なら、何分かおきにでも確認しに来たらどうですか? と、口角を上げた。
その人の返事を待たずに、私は廃ビルの中、うまい具合に風を遮ってくれる場所に潜り込み、目を閉じた。
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千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます!その後話も気になりますが、これ以上書き足すと蛇足になってしまいそうだったので…笑 たぶん夢主ちゃんは幸せに暮らしていると思います。想像の中でお楽しみいただけると幸いです! (2022年12月6日 19時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2021年10月13日 22時) (レス) @page38 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - いちごあめさん» コメントありがとうございます! この題名は中々インパクトありますよね笑。あわああ他の作品も見ていただけるんですか、ありがとうございます! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
いちごあめ - 完結おめでとうございます〜!!題名に釣られたんですけど目に入って本当に良かったなぁって感じてます、笑 他の作品も見させて頂きます( *´ワ`*) (2020年8月26日 21時) (レス) id: 6feff1c97c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» ありがとうございます! 時間があったら他の作品も読んでいただけるんですか!? めちゃくちゃ嬉しいです! 次作も一生懸命頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年7月4日 16時