30 ページ30
Aの作文はところどころに情景を入れながら続いていく。
どうやら廃ビルを見つけたのは偶然らしい。けれど、少しずつAは廃ビルという場所に依存していく。県一つの境も気にせずに通うほど。
・
___ここでなら私は私でいられるの。
ここには誰もいないから。理不尽を押しつける人も、私がここに居るのを否定する人も。
・
どこにもないと確信していたところに見つけた、自分だけの場所。
漠然と抱えていた喪失感を埋めてくれる場所は、縋れるものがなかったAにとっては大きな意味を持つものだったに違いない。
日に日にAが廃ビルへと通う日は増えていく。
・
___「どうしましょう、借金を返せないわ」
学校から帰ってきたその日の夕方、お母さんがそんなことを言っていた。
今更そんなことを言うの? そして自分のせいだと自分たちを追いつめていくの? 私たちはなんにも悪いことをしていないのに。
悲しみより先に怒りが襲ってきた。両親に借金を押しつけたあいつ。そいつに便乗して来た借金取り。……そして、それを当たり前のように受け入れる両親。
みんな、馬鹿だ。
・
残り一枚。
汗が額を伝うのも気にせずに、息をしているのかすらわからなかった肺を動かした。
Aは電車に乗って、廃ビルへ向かう。唯一自分を受け入れてくれる場所へ。唯一自分が安心できる場所へと。
・
___私の休息の場所。心のより所。私を受け入れてくれる場所。私を否定しないでくれる場所。最期の景色はここがいい。
たどり着いたときには決めていた。理不尽を受け入れる気なんて毛頭ない。
「……なら、今度は永遠の休息をちょうだい」
・
___そして私は、屋上から飛び降りた。
・
「え……?」
文は、そこで終了していた。
本来ならばここで僕と出会って、Aは生きているはずなのに。ここに居るはずなのに。
なんでこんな終わり方にしたのだろう。物語文だと一笑に付されれば終わりかもしれないけれど、疑問を隠せなかった。
「まふさん、まだ渡せてないプリントありました―――……あ、それ」
部屋から出てきたAの目が僕の持っている作文用紙に吸い込まれる。
「……ねえ、なんでこんな終わり方にしたの? Aは、生きたくなかった?」
「え……? ……それを読んでも、わからないんですか?」
心底不思議そうに首を傾げた彼女。
その表情からは、なにも読みとることが出来なかった。
581人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます!その後話も気になりますが、これ以上書き足すと蛇足になってしまいそうだったので…笑 たぶん夢主ちゃんは幸せに暮らしていると思います。想像の中でお楽しみいただけると幸いです! (2022年12月6日 19時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2021年10月13日 22時) (レス) @page38 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - いちごあめさん» コメントありがとうございます! この題名は中々インパクトありますよね笑。あわああ他の作品も見ていただけるんですか、ありがとうございます! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
いちごあめ - 完結おめでとうございます〜!!題名に釣られたんですけど目に入って本当に良かったなぁって感じてます、笑 他の作品も見させて頂きます( *´ワ`*) (2020年8月26日 21時) (レス) id: 6feff1c97c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» ありがとうございます! 時間があったら他の作品も読んでいただけるんですか!? めちゃくちゃ嬉しいです! 次作も一生懸命頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年7月4日 16時