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___平凡なんて、唐突になくなってしまう。そんな事実を知ったのは十歳のときだった。
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その一文から始められた物語文は、およそ十枚にも連なっていた。
Aが僕とそらるさんに話した自らの過去を軸に、様々な場面が切り替わっていく。これは間違いなく、Aが経験したものだ。
僕がそう判断したのには根拠がある。……心情が、書かれている。この物語の主人公である人物の。それはあまりにも重く、リアリティがあった。
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___ここは私たちの家じゃなかったの? 悪いことをしていないのになんで謝っているの? 心の中に
なんでお父さんは、お母さんは、理不尽な事柄を甘んじて受け入れているのだろう。私には到底理解できなかった。
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借金を背負ったAの家族。家に帰れば寝る暇もなしに働き続ける両親に、我が物顔で家に入ってくる借金取り。
学校では虐められこそしなかったが、みんな、漠然とした忌避感をAに対して持っていた。
綴られている文章は単調なものだったが、それで充分伝わった。
自らが置かれた理不尽な状況に対する嫌悪感。何処にも居る場所がないという喪失感。負の感情で埋め尽くされたまま、Aは転機を迎える。
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___どこに行けばいいんだろう。
特に行かなければいけない場所もない。かといって、自分が行きたい場所もない。私って思ったより、なにかに執着しないんだな。
ぼんやりとした頭を抱えていれば、いつのまにか電車の中にのっていた。
私、なにやっているんだろう。今の自分と切り離した場所を見つけたとしても、そこに私が居ていいはずがないのに。
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Aの出身を知ってから、なんとなく疑問は覚えていた。
Aの出身地は千葉県。ここは東京。県一つの差があるというのに、なぜあそこにいたのか。
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___遠くへ行きたい。くだらない私を置いていけるほど、遠くへ。そう願って駅を降りる。
けれど、県一つ分先の場所へ来ていたって、私を受け入れてくれる場所はない。とっくに知っていたはずのことを頭の中で反芻した。
……このまま死んじゃうのもいいかもしれない。天国とか地獄は信じていないけれど、行き場のない喪失感を抱えているよりずっといい。
そう思って空を見上げていると、今にも崩れてしまいそうな廃ビルが目に映った。
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千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます!その後話も気になりますが、これ以上書き足すと蛇足になってしまいそうだったので…笑 たぶん夢主ちゃんは幸せに暮らしていると思います。想像の中でお楽しみいただけると幸いです! (2022年12月6日 19時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2021年10月13日 22時) (レス) @page38 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - いちごあめさん» コメントありがとうございます! この題名は中々インパクトありますよね笑。あわああ他の作品も見ていただけるんですか、ありがとうございます! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
いちごあめ - 完結おめでとうございます〜!!題名に釣られたんですけど目に入って本当に良かったなぁって感じてます、笑 他の作品も見させて頂きます( *´ワ`*) (2020年8月26日 21時) (レス) id: 6feff1c97c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» ありがとうございます! 時間があったら他の作品も読んでいただけるんですか!? めちゃくちゃ嬉しいです! 次作も一生懸命頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年7月4日 16時