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辺りが静かになり、誰も周りに居なくなったことを確認すると、私はそっと物陰から出た。
さっきは思わぬ邪魔が入ったが、もう大丈夫だろう。そう思って、もう一度廃ビルの階段に足をかける。
……まさか、まだここに人がいるなんて思わずに。
「やっぱり」
廃ビルから少し離れたところ、街灯の陰になっている暗がりから出てきたのは、さっきの人。
帰ったんじゃなかったのかよ、暇人だな。
声には出さぬ悪態を吐きながら、素知らぬふりをして通りすぎようとする。
「なにやってるの」
「見ての通り、帰ろうとしているんですが? あなたも帰ってください」
「え、さっきから何十分も経ってるって」
さては、とその人の目が怪しく光る。
「また、飛び降りしようとしていたんでしょ。僕が居なくなったところを見計らって」
まあ、さすがに気づくか。
もうここまで気づかれては仕方がない。この状況が改善されるかはわからないが、開き直ってみる。
「そうですけど? でも、あなたになんの関係もないじゃないですか。面倒ごとに関わる前に、さっさと帰った方がいいですよ」
私の言葉を怪しく感じて、何十分もここに居座るとか暇人ですか、なんて皮肉は呑み込んだ。
なるべくさっさと帰って貰いたい。まだ夜明けまで何時間もあるが、時間は惜しかった。
「さすがにこんなところに、しかも飛び降りをしようとしている子供を置いていくなんて出来ないって。……親御さんは?」
「地球上のどこかにいるんじゃないですか」
「もっと詳しく」
私の精一杯のジョークを軽く受け流される。
別に事実ではないことを言ってはいないのだが。
「じゃあ日本国内じゃないです? ……たぶん」
「え? たぶん、って……」
うわ、そこ気にする?
いや、これは私の失言だ。なるべく小さな声で言ったつもりだったが、しっかりと聞こえていたらしい。
これは事実を言うしかないのかな、なんて半分諦めて口にする。
「だから、地球上のどこかですって。たぶん日本国内だとは思いますけど、外国に逃げている可能性も無きにしもあらずですし」
「え……? 逃げてるって、なにから」
「ヤミ金融ですね。死語かもしれませんが、蒸発ってやつです」
だから、関わらない方がいいですよ。そう続ける前に、遮られた。
「え、じゃあ警察! 警察行った方がいいって。だってそれ、行方不明ってことでしょ?」
私は、今日何度目かわからないため息を吐いた。
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千々(プロフ) - ちょこさん» ありがとうございます!その後話も気になりますが、これ以上書き足すと蛇足になってしまいそうだったので…笑 たぶん夢主ちゃんは幸せに暮らしていると思います。想像の中でお楽しみいただけると幸いです! (2022年12月6日 19時) (レス) id: 1d9d509371 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ - とてもよかったです!その後話が欲しい! (2021年10月13日 22時) (レス) @page38 id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - いちごあめさん» コメントありがとうございます! この題名は中々インパクトありますよね笑。あわああ他の作品も見ていただけるんですか、ありがとうございます! (2020年11月1日 14時) (レス) id: 4401622583 (このIDを非表示/違反報告)
いちごあめ - 完結おめでとうございます〜!!題名に釣られたんですけど目に入って本当に良かったなぁって感じてます、笑 他の作品も見させて頂きます( *´ワ`*) (2020年8月26日 21時) (レス) id: 6feff1c97c (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - ひきねこさん» ありがとうございます! 時間があったら他の作品も読んでいただけるんですか!? めちゃくちゃ嬉しいです! 次作も一生懸命頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願いします! (2020年8月18日 22時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年7月4日 16時