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ゆっくりとロイヤルミルクティーを口に運べば、真冬さんとの雑談に興じる。
楽曲提供という本来の目的は果たしたはずだが、そのあとに少しばかり雑談をするのが私たちの日常となっていた。
「ずっと不思議に思っていたんですけど、Aさんはどうして自分で歌ってみたりしないんですか? 曲を作っているっていうことは、音楽は好きなんでしょう?」
ほら、自分で歌ってみたを投稿しているボカロPさんもいるじゃないですか、と真冬さんが言う。
五年間の中で、私は一度も声出しをしたことがない。
ただ単に、曲を作って、ボーカロイドに歌わせる。“わたげ”はそれだけのボカロPだ。
活動当初は、そんな疑問も私に向けて言われていたかな、だなんて思いを馳せる。
今でこそ、そんな疑問を抱く人は少なくなったように見えるが、それは単に慣れの問題だろう。
「Aさんはとても綺麗な声をしているのに。Aさんが作る曲調にだってぴったりです。Aさんの歌った曲を聴いてみたいなぁ、だなんて僕の勝手な願いですけど」
笑い混じりにそう言う真冬さんは、とても冗談を言っているようには見えない。
だから困るんだよなぁ、だなんて苦笑した。
「実は私、ものすごい音痴なんです…………って言ったら、信じます?」
「信じません」
「ですよね」
予想していたこととはいえ、即答する真冬さんに苦笑する。
「Aさん、たまに口ずさんだりしているじゃないですか。音程なんて外してませんし、本当に綺麗だと思います」
「ちなみに今日口ずさんでいた曲は?」
「『それは恋の終わり』」
「正解です」
やっぱりバレているかぁ、と思う。
まあ、真冬さんの作った曲を口ずさんでいるんだからバレて当然かもしれないが。
「で、やっぱり教えてくれないんですか? 自分で歌った曲を投稿しない理由」
「教えません。……まあ、そんな気分になったら投稿するかもしれませんけどね」
「気分で決めているんですか?」
もう一度疑問が投げかけられたけど、まあ答えなくていいだろう、だなんて一人で勝手に結論づける。どちらにしろ、理由を話す気は毛頭ないし。
「よし、家に帰ったら早速録音します! 早くも歌うのが楽しみになってきました!」
「私も楽しみにしていますね」
机の上に散らばっていた書類を一つにまとめてファイルに閉じ、真冬さんに手渡した。
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千々(プロフ) - そらねこさん» お話の波乱万丈さをあまりかけなくて、心情描写に気を使ったのでそう言っていただけてとても嬉しいです! ありがとうございます! (2020年7月15日 19時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
そらねこ(プロフ) - ああ……好きです……心情描写が細やかで綺麗で切なくて、読み終わった時なんか胸がふわっとしました……語彙力がなくてもどかしい!ありがとうございました! (2020年7月14日 18時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» ですよねですよね! 個人的にその台詞すごく気に入っていて! そう言っていただいて嬉しいです! 両片想いからの両想いっていいですよねぇ……このお話それを書きたくて書いたんですもん←← (2020年7月14日 17時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - 個人的に両片想い→両想いが大好きなのでドストライクでした。良い作品を読ませていただいてありがとうございました!! (2020年7月14日 12時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - はじめまして、コメント失礼します。有名人ならではの恋のし辛さやSNSでのトラブルの展開がいいスパイスになって、全体的にしっとりとした雰囲気の漂う作品でした。mfさんの「ユーフォリアなんて言わせない」がとてもよくて涙腺が……! (2020年7月14日 12時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年6月7日 15時