【まふまふ】さよならユーフォリア

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けれど、不思議に思っていることがある。

本来ならば、真冬さんに楽曲提供なんて必要がないはずだ。

自分で歌っている曲はもちろん、組んでいるユニットでは真冬さんがほぼ全ての作詞作曲をしている。他の歌い手さんにだって楽曲提供をしている。しかも、曲調が被っている曲は全くと言っていいほどない。

その作曲量はボカロＰである私も舌を巻くほどだ。


現在進行形でも、真冬さんは作曲を続けている。わざわざ一介のボカロＰに楽曲提供をしてもらう理由などないだろう。

まあ、そんな真冬さんに甘えて、この関係を続けている私の方にも責任はあるのかもしれないが。


楽曲提供を始めてからもう三年。

まふまふさんリスナーの間では、最早ボカロＰ“わたげ”がまふまふさんに楽曲提供をしていることは公然の事実。

今更文句を言う人なんているわけもなく、逆に楽しみにしている人がいるくらいだ。



「今回楽曲提供させていただく曲は『恋ひ余るが故に』という曲です。溢れ出してしまう恋心をイメージして作った曲ですね。絵コンテ見せます」



ファイルの中から絵コンテを取り出し、テーブルの上に置く。


ＭＶは主にバケツの中に入った水のイラストで構築されていて、そこから少しずつ水があふれ出していく―――…“隠したいのに、恋心が溢れてしまう”そんな気持ちを表したイラストだ。

その途中に男女が現れては消え、その距離感が少しずつ変わっていく。


絵コンテの流れを説明すると、注文したロイヤルミルクティーを口に運んだ。



「やっぱりすごいなぁ、Aさんの作る曲は。初めて聴いたときにも思ったことですけど、なんだかリアリティがあるんです。ほら、ここのラスサビの前の歌詞とか」



＿好きだから、溢れても閉じこめるんだよ＿

ラスサビの前、伴奏は一切つけずに歌う場所。

ＭＶでは、バケツの蓋を閉める部分だ。そこからラスサビへ。二人の男女はもう背を向けている。



「でも、それなのに最後には少しだけ思いが溢れ出すんですよね。小さく、でも決して相手に聞かれないように。……なんだか、本当に切ないなぁって」



＿バイバイ、さよなら、この思いが届いてしまう前に＿

バケツの蓋の隙間から、一滴だけ水が零れ落ちる。そして去った男女は、お互いのことを振り返ることすらしない。



「なんででしょうね、Aさんの恋歌は心に迫るものがあるんです」



そう言った真冬さんに「憧れの人にそう言ってもらえるだなんて嬉しいです」と微笑んだ。

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