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再生ボタンを押せば、昨日嫌と言うほど再生した曲の前奏が流れてくる。
前奏が終わり和音が一つ響くと、伴奏もなにもない中、真冬さんの声が耳に届いた。
_あの日はきっと、夢の向こう側_
_泡沫に縋っても、得られるものはなにもない_
自分で作った曲だというのに、なぜか心に染みる。
真冬さん、これはあなたが歌う曲じゃないよ。私のわがままを、歌わなくたっていいよ。
そう思っているのに、停止ボタンを押す勇気はでない。この声を耳に焼き付けたい。そう願ってしまう。
_なにを以て幸せを呼ぶ。なにを以て幸せを願う_
_それならば手放してしまおう。
サビに入れば、真冬さんの声以外、なにも聞こえなくなっていた。
使っているイラストも、歌っている歌詞も同じもののはずなのに、歌っている人物が変われば、こんなに違う音楽になってしまう。
……あれ、そういえば《Arennji ver.》って書いてあったよね。
今の所、特にアレンジした箇所はない気がする。イラストも、歌詞も。なら、どこをアレンジしているんだろう。
疑問を抱えながらも、心地よい音楽の波に浸る。
_目に写ったのはかつての幸福。思い出すのはかつての愛_
ラスサビの終盤。
最早伴奏は和音ではなく、一音だけ。
そして最後に、伴奏がなくなった、メロディーもなにもない、呟くだけの箇所へ。
私が地声で語りかけた、あの箇所。
_大好きだったよ、さようなら_
それでこの曲は終わり。その
けれど、流れてきたのは私の知らない箇所、おそらく真冬さんが追加した―――…
_いやだよ_
縋るようなその声。
スマホ画面を見れば、大粒の雫が溜まっていた。それはどんどん上から滴り落ちる。
「……なに、これ」
もう会わない。そう覚悟を決めたのに。その覚悟をこの歌にのせたはずなのに。
真冬さん、あなたはそれを“いや”と思っているの―――?
黒くなったスマホ画面に浮かび上がったのは、白い文字。
_今夜七時、初めて会った場所で_
なんで、こんなこと。
この言葉は、きっと私に向けられている。
私が見ていなかったらどうするつもりだったんだよ。待ちぼうけを食らうのは真冬さんじゃん。
時間を確認する。まだ、七時までには余裕があった。
気づけばなにも持たずに、私は外へ走り出した。
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千々(プロフ) - そらねこさん» お話の波乱万丈さをあまりかけなくて、心情描写に気を使ったのでそう言っていただけてとても嬉しいです! ありがとうございます! (2020年7月15日 19時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
そらねこ(プロフ) - ああ……好きです……心情描写が細やかで綺麗で切なくて、読み終わった時なんか胸がふわっとしました……語彙力がなくてもどかしい!ありがとうございました! (2020年7月14日 18時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» ですよねですよね! 個人的にその台詞すごく気に入っていて! そう言っていただいて嬉しいです! 両片想いからの両想いっていいですよねぇ……このお話それを書きたくて書いたんですもん←← (2020年7月14日 17時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - 個人的に両片想い→両想いが大好きなのでドストライクでした。良い作品を読ませていただいてありがとうございました!! (2020年7月14日 12時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - はじめまして、コメント失礼します。有名人ならではの恋のし辛さやSNSでのトラブルの展開がいいスパイスになって、全体的にしっとりとした雰囲気の漂う作品でした。mfさんの「ユーフォリアなんて言わせない」がとてもよくて涙腺が……! (2020年7月14日 12時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年6月7日 15時