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ぱく、とフォカッチャサンドを咥える先輩はどこまでも絵になる。
辺りから男性社員の熱い視線が向けられているのは、気のせいではないだろう。
こんなに美人なのにも関わらず、まだ先輩は結婚していない。聞くところによると、これからも結婚する気はないらしい。
「今日はAさん、元気なかったよねぇ」
どうしたの? なんて訊かれる。
もう踏ん切りを付けたはずだ。だから、大丈夫。そんなふうに強がってみても、やっぱり態度には現れているらしい。
「もしかして、失恋?」
一瞬、視線を落とす。
失恋、なのかもしれない。一方的に関係を断ち切ったとはいえ、もう好きな人との繋がりはないのだから。
「あれ、当たってた?」
「……たぶん、当たってません」
別に告白したわけでもなければ、相手に拒まれたわけでもない。
私が勝手に、諦めただけだ。
「ほお、じゃあ当たっているわけだ」
「私の言葉聞いてました?」
「聞いてた」
全く悪びれる様子もなく、こっちを見つめてにっこり笑う。
それ、さっきから先輩を見ている男性社員にやってあげてください。私にやっても何の意味もありませんよ。
「たぶん、ってことは、Aさんにもわかんないわけだ。相手が自分に好意を持ってくれているのか、いないのか」
「……好意は、ないと思いますけどねぇ」
「直接そう言われたの?」
「言われてませんけど、一方的に関係を切ってもなんの反応もない仲です。だいたい自分の気持ちを伝えてもいませんし」
そっかぁ、と先輩は相づちを打つ。
色恋沙汰に関して先輩は百戦錬磨だが、それはあくまで恋される側の視点。実は初恋もまだだったりするらしい。
「でもまあ、反応がないってことは、どっちに転ぶかもわかんないと思うけど。その彼とは何年の関係?」
「……三年」
「三年!? それだったら尚更、どっちに転ぶかわかんないわよ。そんな長い関係なんだから。まだ気づいてないだけってのも、ありえると思うよ?」
気づいてない、かぁ。
それはないだろう。ほぼ毎日Twitterを利用している真冬さんだ。さすがに気づいていると思う。
「結局、もう連絡手段はないですから」
真冬さんのツイートはチェックしているが、個人的なやりとりはもうできない。
あの曲を歌うことで、私は踏ん切りを付けた。だから、いいんだ。真冬さんに想われていなくても。
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千々(プロフ) - そらねこさん» お話の波乱万丈さをあまりかけなくて、心情描写に気を使ったのでそう言っていただけてとても嬉しいです! ありがとうございます! (2020年7月15日 19時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
そらねこ(プロフ) - ああ……好きです……心情描写が細やかで綺麗で切なくて、読み終わった時なんか胸がふわっとしました……語彙力がなくてもどかしい!ありがとうございました! (2020年7月14日 18時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» ですよねですよね! 個人的にその台詞すごく気に入っていて! そう言っていただいて嬉しいです! 両片想いからの両想いっていいですよねぇ……このお話それを書きたくて書いたんですもん←← (2020年7月14日 17時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - 個人的に両片想い→両想いが大好きなのでドストライクでした。良い作品を読ませていただいてありがとうございました!! (2020年7月14日 12時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - はじめまして、コメント失礼します。有名人ならではの恋のし辛さやSNSでのトラブルの展開がいいスパイスになって、全体的にしっとりとした雰囲気の漂う作品でした。mfさんの「ユーフォリアなんて言わせない」がとてもよくて涙腺が……! (2020年7月14日 12時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年6月7日 15時