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けれど、ボカロPであるわたげが活動を終了する理由なんてきっとどこにもないのだろう。
アンチはいなかった。だってあれは仕事だったんだから。
不満げに思う人はいたかもしれないけれど、それはほんの少数。全体から見れば、きっと1%にも満たない数だ。
だから、活動を終了するなんて誰も思っていなかった。
けれど、私は活動を終了した。
「臆病だな、私」
怖かったんだ、自分の気持ちが抑えられなくなることが。
私はまふまふさんのリアコ勢。そんな私が真冬さんの傍に居られること自体が分不相応。
それでも、大丈夫なはずだった。自分の気持ちを抑えられるはずだった。この関係を始めてから早三年。長年続いた関係が今になって壊れてしまうほど、私は柔ではない。
けれど、私が居たことによるリアコ勢の方のショックは、私の心に亀裂を入れた。
当たり前だ。自分の好きな人が、他の女の人と一緒にいたら嫌な気持ちになる。
たとえ大した関係でなくとも。必要以上に過敏になってしまう。それが恋なのだから。
私もリアコ勢。だからこそ、痛いほどその気持ちが良くわかる。
けれど、私は個人的に真冬さんと会うようになってから、リアコ勢の一線を越えてしまったのだ。だから、決してこの思いに気づかれないようにしなければならなかった。
でも、もう駄目だ。
真冬さんに会う度に積み重なる優越感。幸福感。
そんなものには気づかない振りをしていたが、今回のことで感じてしまったんだ。
“そんな気持ちを持つ私が、真冬さんの傍に居てはいけない”、と。
「……だから、別れを告げよう。これ以上の幸福を知ってしまう前に」
『さよならユーフォリア』のラスサビ前、その部分を歌う。
この曲を歌うことで、私は覚悟を決めたはずだった。もう真冬さんの傍に居られることはない、と。
既に、真冬さんの連絡先は消している。わたげの活動も終了したため、私と真冬さんを繋ぐものはもうない。
―――なのに、まふまふさんのツイートを確認しようとする私は、余程未練を残しているんだな、なんて。
わたげの活動終了について、なにか呟いてくれているかもしれない。
少しでも、気にかけてくれているかもしれない。
淡い期待を胸に抱き、ツイートを確認する。
けれど、そこにはなにも書かれていなかった。
私が活動を終了してから、まふまふさんは何一つとしてツイートをしていない。
無意味な期待をしたな、だなんて自嘲する。
つぅっと、雫が頬を零れた。
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千々(プロフ) - そらねこさん» お話の波乱万丈さをあまりかけなくて、心情描写に気を使ったのでそう言っていただけてとても嬉しいです! ありがとうございます! (2020年7月15日 19時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
そらねこ(プロフ) - ああ……好きです……心情描写が細やかで綺麗で切なくて、読み終わった時なんか胸がふわっとしました……語彙力がなくてもどかしい!ありがとうございました! (2020年7月14日 18時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» ですよねですよね! 個人的にその台詞すごく気に入っていて! そう言っていただいて嬉しいです! 両片想いからの両想いっていいですよねぇ……このお話それを書きたくて書いたんですもん←← (2020年7月14日 17時) (レス) id: b78eeb1902 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - 個人的に両片想い→両想いが大好きなのでドストライクでした。良い作品を読ませていただいてありがとうございました!! (2020年7月14日 12時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
しぇるふぃあ。((芦原晴))(プロフ) - はじめまして、コメント失礼します。有名人ならではの恋のし辛さやSNSでのトラブルの展開がいいスパイスになって、全体的にしっとりとした雰囲気の漂う作品でした。mfさんの「ユーフォリアなんて言わせない」がとてもよくて涙腺が……! (2020年7月14日 12時) (レス) id: a3aac3bf63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:千々 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/tidierika2/
作成日時:2020年6月7日 15時