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「…A?」
「ほらばあや。それでは誰だか伝わらないよ。…短住に手紙を出されたんでしょ?」
茶を差し出してきた青年は、泰然さんよりはいくらか若いうえに、顔色が良い。ただ、腰に液体の入った瓶を提げていて、管が彼の身体に繋がっているようだった。
「手紙を出すよりも、会いに行ったほうがはやいねえ。…あの子もそう言うと思うよ。予定はあけときなさいね…」
「知り合いなのかい?」
「そうさ。家が隣だったから親しいもんで」
なるほどと思った。そのような間柄であれば、鳩を任せるのも納得だ。僕は茶を一口含んだ。目を見開くほどの逸品であった。
もし返事が届かなければ、青年が短住先生との間を持ってくれることになった。僕はやはり瓶が気になって、せめて衝撃を吸収できる素材を使った入れ物にでも入れたほうがいいのではないかと思った。
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翌日の朝、兄上は僕を呼び止め、一枚の封筒を差し出してきた。鳩が咥えて待っているのを見つけたらしく、僕の名前が記されていたから持ってきたという。
自室に戻って一人で手紙を開いた。達筆な字が並んでおり、それとは別に一枚の地図が同封されている。
『行秋様
葉は緑に、川は白く輝いております。窓辺で歌を聞かせてくれる小鳥たちが、最近の楽しみです。
さて、この度はご心配、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。下巻を心待ちにしてくださっていたにも関わらず、楽しみを奪ってしまうことになり、私自身深く反省しております。
実は、どうしても出版を続けられなくなってしまい、下巻がない状態で上巻・中巻の出版を継続するのは、今後もし作品を愛してくださる方が現れると、また同じ悲しみを味わわせることになってしまうと思い、私が出版社に絶版をお願いしたのです。
ご覧になっておわかりになるかと思いますが、諸事情で手紙を書くのもままならない状況です。もし納得するまで話を聞きたい、というのでしたら、ご都合の良い日に同封した地図の家にいらっしゃってください。お手間をおかけします。
それでは、どうかお体にお気をつけてお過ごしください。
短住』
『変我剣記』は、剣記、と名がついている割には“剣術の成長”を全面に描いた作品ではない。己の精神の成長を剣術修行かのように成していく、どこか知的な物語だ。その著者・短住。その人物像は、今まで想像もつかないものだった。出版社ではじめて、少し掴んだのだ。
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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時