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「…じゃあ、時々会いに来るのは何なの?」
「、………それは」
「なんで今、逃げないの?」
きっと、魈だってわかっているのだろう。自分の願望、足りないもの。けれど、それは満たされてはいけないのだと思いこんでいる。願望が、また一つの願望、ある種の理性、倫理には敵わないと思っている。
「我慢すると、つらいよ。苦しいよ」
確かに、私は旅人とは違ってただの凡人だけど。彼だってずっと璃月にいるわけじゃない。実際、今もこの国にいないのだから。ならば、魈はどうすればいい?孤独をどう埋めればいい?慣れているなんて言っておきながら、ただ自分の願望を仕舞い込んで無理やり蓋をしているだけだ。
時々それが溢れるから、会いに来るんでしょ。蓋をしきれてないんでしょ。
「…怪我の手当もそうだけど。あなたを必要としてる人がたくさんいるって、本当の意味でわかって」
もう、魈がどんな様子なのかも、見てはいなかった。
「…もう寝るね」
悲しくて、いてもたってもいられなかった。眠くもなんともないけど、瞼は少し落ちていた。おやすみ、とだけ言った。ここで一人にしてはいけないと思ったのに、やっぱり一人にしたほうがいいんじゃないかとも思ってしまった。
私は、魈を見ることもせず、旅館の一室に戻ろうと歩き出した。
…たった数歩のみ。
「まて、行くな」
ガタ、という椅子の音と、パシリと掴まれた腕。私は一瞬で何が起きたのか理解した。振り向くと、おかしな表情をした魈がだんだん俯いていく。
魈は、自分が何をしたのか理解していないようだった。
「…?」
「…魈。これでいいんだよ」
「し、しかし我は」
「もう、うるさいな…少なくとも私には気を使わないで。そういうことされるの、しぬより嫌」
そっと肩に手を当ててみると、まだぽかんとしている魈はゆっくりその手を取って、意味もなく見つめていた。
「傷つくことが、怖くはないのか」
「言ったでしょ、気を使われるより、痛い思いしながら喋るほうがずっといい」
私が魈のなんだ、と言われればなんでもないけれど。しばらく放心してから、大人しく腕を出してきた。彼は自分を少し受け入れた。この先ずっと続く苦しみを私に分け与えると、そういう一種の選択肢を手にとってみたらしい。
どこかを見ながら話す。魈は、先程よりも近くにあった。ココロというのも、近くに。
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名無し3680号(プロフ) - まくらもとさん» 読ませていただきました!最高でした。素晴らしいお話ありがとうございます! (2023年3月6日 22時) (レス) @page34 id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» 遅くなってしまってすみません。書き上げましたのでレス失礼します。書いてて「これでいいのか?」と悩んだんですが、まくらもとらしさを重視してそのまま投稿しました。ちょっと長いんですがよろしくお願いします〜 (2023年3月6日 21時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - 名無し3680号さん» リクエストありがとうございます!!3.5の風花祭での登場もあると思いますし、ブリュー祭を振り返って想像を膨らませながら書いてみますのでお待ち下さいな。いつもありがとうございます! (2023年2月27日 16時) (レス) id: b517cf66d5 (このIDを非表示/違反報告)
名無し3680号(プロフ) - リクエスト宜しいでしょうか?ミカ君で夢主と事故キスする話しなど書けますでしょうか?いつも楽しく読ませていただいております! (2023年2月26日 22時) (レス) id: be46167942 (このIDを非表示/違反報告)
まくらもと(プロフ) - ルーナさん» 好きじゃなかったら絶対「いつか旅に出られるといいね」としか言わなかったと思います。衝動で動いちゃう空ほんと… (2022年9月27日 22時) (レス) id: cfa18e3d30 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まくらもと | 作成日時:2022年9月27日 1時