#二人で歩く帰り道 ページ19
『え、夜中だから危ないよ?』
「ううん、平気」
『……そ?あ、信号あるけど』
「ソコは渡って正面の細い道に入って真っ直ぐ来て……」
カッカッカッ……と引っ掛けたサンダルが夜中の雲一つない空に響いて。
私がまっすぐ進んでいる道の向こうから、ユラユラ不安定な光がひとつ。
その光の元に跨った人は、街灯に照らされた私を見つけると、くるんと口元を上げて、キキッ……とブレーキ音を鳴らして私の横に停まった。
『ありがとね、出てきてくれて』
「ううん……大丈夫、だけど」
自転車から降りたさかたんは、自転車を自分の右側に、私を左側にしてザリザリとサンダルを鳴らして歩いて。
ハンドルからプラプラとぶら下がっていた白いビニール袋を開けると、アイスの袋を私に手渡した。
ニコイチになってるチューブ容器に入れられた、チョココーヒー味のアイスは。
ひとりじゃ2本は食べられないから困る……なんて以前、私がさかたんに言ったことがある、私の好きなアイスで。
パキッと分けて片方を手渡せば、2人して立ち止まって、蓋の部分を千切って吸って。
「……んまい」
『ド定番だもん、美味いよ』
「安定の美味しさだよねぇ」
『ほれ、案内しなさいよ、あんたんち』
「はぁい……」
チューブの容器を2人して咥えて、時々ジュッ……って吸い込む音が大きく響いて。
んふふっ……ってさかたんの小さく笑う息の音が隣から聞こえて。
2人で一緒に歩いた事もあったのに、自分の気持ちを自覚してからは初めてだからか、やけに緊張する。
「……なんか、あったの?」
『……ん?なんでや?』
「だって、ウチに来るなんて初めてじゃん……もしかして、また彼女となんかあったの?」
『ないない!大丈夫だよ』
「なら、なんで……」
『お前んち、着いたらね』
少し引き摺るみたいな、さかたんの歩く音がやけに大きく聞こえて。
家までの距離なんて5分も無い位だったのに……どうしてか、倍以上に感じてしまって。
アパートの前に自転車を停めてもらう時も、一緒に階段を上ってる時も、玄関の鍵を開けてさかたんを自分の部屋に招き入れる時も。
「……どうぞ〜」
『お邪魔しま〜す』
これ以上ない位に心臓がドキドキしてて。
家に着くまでに、他に何を話してたかなんて、正直覚えてない。
83人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ