その能面、俺が剥がしたる【宮侑、宮治】

そうやない ページ8

いきなり聞いたこともない大声を出す佐原に目を丸くする。いつも聞こえるか聞こえないかくらいの声は、今は耳を劈くほどの大きな声。

いつも変わらない表情は、怒りに満ちていて、鋭い目付きで俺を睨んでいた。


(え、え、此奴こんなデカい声出るん？つかめっちゃキレとるし)


反論するより驚愕が勝って口が動かない。少しでもあの能面のような無表情を崩せたのを悪戯に成功した子供のような気持ちでいながら。



──────ほんの少し"そうやない"と思った。


そんな思考は一瞬で強引に外へ放った。負けじと顔を顰めて、思い切り佐原を上から見下ろした。


「別に小学生言われてもえぇわ。あー、もうホンマにあれやな。えぇか、この際言っておくけど、俺お前のこと嫌いや」


これからは話しかけんといて。と人差し指で指すと、佐原は目を見開いてバッと目を逸らした。


「そうですか。私も、貴方みたいなタイプは苦手です」

「なら利害一致やな！はぁー、安心や安心！」


清々したわ！と在り来りな台詞を吐き散らして、俺は教室から出ていった。そのときの佐原の表情は、髪の毛の陰でよく見えんかった。









ホンマに清々した。それまで抱えとったストレス、全部吹っ飛んだわ。


「侑！」


やからか、今日は調子がえぇ。えぇはずなんに。


「トス低い。今日どうしたの」

「…なんでもあらへん」


汗を拭きながら駆け寄る角名から目を逸らした。そんな俺を訝しげに見つめる角名から離れ、サーブ練習に移る。




「決まりを守れない貴方の方が、小学生でしょ!」




鋭い台詞が、脳内をグルグルと回る。良かったやんか。あの女の能面剥がせて。素の感情、俺が暴いてやったんやから。


やのに、



──────あ。



サーブトスがぶれ、思い切り放ったサーブはネットにめり込み、下に落ちてポンポンと跳ねて行った。


「今日侑調子悪いなぁ」

「切り替えー」


銀や角名の声が聞こえるのに、なんだか俺の思考は上の空やった。


(どないした、俺)


過去最悪に調子が悪い。なんでや？スッキリしたやんか、佐原に本音ぶちまけて。それでえぇやん。




不意に思い出した。教室を出る寸前、佐原の表情。一瞬、見えたんや。髪の毛の陰に隠れた、その表情が。






ごっつ、悲しそうな顔しとった。







「…そうやないやん」


なにが"そうやない"とか、そんときの俺にはまだ、答えは分からんかった。

双子の意見は一致しない→←小学生 × 2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す