反則 ページ44
「侑くん」
自販機でジュース買っとると走ってきたらしい佐原が来た。緊張を含んだ面持ちに、言いたい事は予測がつく。
「俺はやらへんぞ」
「侑くんがバレー第一なのは本当に理解してる」
いつもより凛とした声音が、よく耳に通る。見れば、真剣な眼差しを向けて、唇を結んで、そこに立っとった。
「私は、侑くんに王子様をやって欲しい。背が高いし、顔も整ってるし。声も張るし」
突然のその言葉は所謂世間一般の"褒め言葉"の部類に入る。やけど、そこには常に付随する下心は全く無うて、本心。本音。
「私が侑くんの台詞とか極力少なくする。そうすればバレーの練習時間は減らないでしょう。侑くんに王子様役やって欲しい。見てみたい。きっと良いものになるから」
嘘偽りのない言葉。佐原の言葉は何処までも真っ直ぐで、それでいて眩しすぎる。もっと汚くてもえぇのに。
期待させるような台詞は、全部俺の下心があるからや。誰にだって此奴はそうや。此奴は、信頼すれば誰にでも真っ直ぐな言葉を届ける。
「そこまで言うならしゃあないな！そないに俺の晴れ姿が見たいんか！」
下心全部とっぱらって叫ぶと佐原は嬉しそうに「…！見たい！」と大きく頷く。そんな顔ダメやん。反則やんか。
「…格好えぇ姿見せたる」と親指を立てると、佐原もニッと笑って親指を立てた。
昼休み。ソワソワしながら肉豆腐定食二人分を持って席に向かうと、必死にシャーペンを走らせるAちゃんを見つけた。
「おっす」
「あ、治くん」
俺の姿を認めるなり、控えめに笑うその手元を覗けば、なにやら台本のようで。
「そういや劇やるんやったな、そっちは」
「うん。そうなの。治くん絶対見に来てね」
いつもより早い口調から、なんや気合い入っとるなぁとほのぼのした気分になる。やっぱり、好きな子が頑張っとる姿はほっこりするし、応援したなる。
「おう。見に行くで。Aちゃんは何役なん？」
「え、私はシナリオ制作」
「は」
す、と台本を見せるAちゃんは真顔。嘘はついとらんようやけど、俺は呆気に取られてしもた。
「なんでや！Aちゃん出ぇへんのつまらん！」
「私は皆の手助けだから。私が出なくても劇は面白いよ！」
「さよか…、ちょい残念やな」
かわえぇ衣装姿見れる思たんになぁ。と何気なしにぼんやり呟くと、ちゃんとAちゃんは聞いとって。
真っ赤になって戸惑うAちゃんの顔見とったら、そないな事どうでも良うなった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 682人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あろま(プロフ) - きのこりさん» 分かりずらくてすみませんでした。ありがとうございます！これからも頑張ります！ (2020年4月17日 11時) (
レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - きのこりさん» ご指摘ありがとうございます！ここなのですが、夢主が侑が何故自分を誘うのか分からず、「普通なら治くんを誘うのでは？もしかして治くんが映画が嫌いなのかな？」と思って「治くん映画嫌いなの？(だから治くんじゃくて私を誘うの？)」という意味合いで聞いています！ (2020年4月17日 11時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
きのこり - ページ36の虫除けで、夢主が「治くん映画〜」てあったんですが、侑くんの話なので、侑くんじゃないでしょうか……。最近この話を知りました。とても楽しく読ませていただいてます。これからも頑張ってください。 (2020年4月16日 22時) (レス) id: b4f9762f22 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - アオさん» やー！本当に申し訳ないです！！確認して直しました！指摘ありがとうございます！ (2020年3月14日 22時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - あの、以前私が治くん視点なのを侑くん視点と勘違いした話なのですが、夢主の呼び方が「佐原」だったので勘違いしたので、直した方がいいと思います。今更ですみません。 (2020年3月14日 22時) (レス) id: eee0ca23b5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あろま
| 作成日時：2020年2月19日 23時
