その能面、俺が剥がしたる【宮侑、宮治】

距離と距離 ページ42

そん後の事はよく覚えてへん。佐原がなんて言ったのかも。ただ、確かな事は、俺たちの間の繋がりはなんも変わらんっちゅうこと。

最初、ズタズタに解れ、切れかけとった糸を必死に俺が試行錯誤して、テープで止めたりボンドではっつけたりして、なんとか佐原と俺との間の糸は繋がっとる。

サムと佐原との間の糸よりずっと脆い、脆い糸。









同じクラスやない俺は、夏休み中にAちゃんと疎遠になりたなくて、なんとか連絡先を交換した。だって、好きやって気づいたから。友達から発展したかったから。好きやから、会えないから、繋がってたいから。

初めてのメッセージは俺からやった。春高一次予選の試合日程を伝えるだけの必要事項しか送れへんかった。すぐにメッセージが来て飲んどった茶吹き出しそうになって。慌てて見れば『見に行くよ。頑張って！』のメッセージ。


「あぁ、頑張るわ」


見に来てくれる、会える。それだけで、あぁ嬉しいなぁって思うんや。









それからの夏休みは怒涛の日々になった。春高一次予選に向けてバレーの日々。俺は佐原に連絡せぇへんかった。

あの日の事は、バレーに極限まで集中することで、考えないようにしとったのもあるし、それ以上にバレーに打ち込む精力が悩みを上回った。

やけど、春高一次予選に佐原は来た。なんも変わらずに接してくれる佐原に半ば残念に思いつつ、でも俺は安心しとった。









ガヤガヤ。ワイワイ。キャアキャア。喧しいクラスの中で、黒板にでかでかと書かれた単語は『文化祭』

隣のクラスは何やるんだ、あれがやりたい、これなら万人ウケする、など様々な意見が飛ぶ中、僅差で決まったのは演劇やった。


「ほな、演劇に決まったさかい、まずどんなお話にするか考えんとな」


委員長が「誰かシナリオ書く人ー」と呼びかけると、辺りが静まり返る。シナリオなんて重大任務や。誰もやりたないに決まっとる。

そん中でおずおずと手を上げた奴がおった。銀の後ろ、ちっさな身体の、佐原。


「おっ、佐原さん！佐原さん国語得意やし、えぇかもな」


委員長がうんうんと頷くと「凄いストーリーになりそう」と近くの女子も賛同した。反対する奴なんか勿論おらず、シナリオ制作は佐原の役に決定した。

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