その能面、俺が剥がしたる【宮侑、宮治】

つまらんわ。 ページ31

つくづく自分は運がいいんやと思う。今度は廊下側の一番後ろ。ここもドアが近くて風通しがいい。

隣の女子の「侑くん、よろしゅうね」と作った声の挨拶を適当に受け流しながら真ん中の列に目をやる──────1番前の銀の後ろに佐原っちゅう、なんとも滑稽な席順になっとった。

デカい銀の後ろにちっさな佐原。銀は後ろを向くなり笑顔で自己紹介しとった。そんな銀に対して佐原もほんの少し笑って挨拶する。




(…なんや、俺ん時は無愛想やったくせに)




理由は分かっとる。悔しいが銀はごっつえぇ奴で、えぇ奴オーラが滲み出とるからや。やから男苦手な佐原も多少打ち解けやすいんかもしれへん。

やけど、なんや微妙な心境になる。


「…むくん、侑くん？」


とん、と肩を叩かれ向けば、隣の女が首を傾げとった。確か名前は中島。佐原とは対極にいるような派手な女。


「聞いてた？何処見とんのー」


なんで後ろ伸ばすねん。意味わからへん。視線の先を知られた無くて「スマン、ぼうっとしとったわ」と返す、中島は簡単に信じて「そっかぁ」と笑った。

どうでもいい中島の話を聞きながら、俺の頭ん中は、少し前の銀と佐原の席のこと。







静かすぎる席が何倍も居心地良かったっちゅうたら、お前、なんて言うんやろな。









「悪ぃ佐原、ちょっと分からへんところがあってな」

そんな銀の声が聞こえて、俯せた顔を少し上げる。見れば、佐原が銀にノートを見せながらご丁寧に解説しとった。その解説に「なるほどな！」と銀が笑うと、近くの女子が寄ってきた。


「現文難しいよなぁ」
「佐原の解説ごっつ分かりやすいで」
「ホンマ？」


そんな事から始まり、佐原の周りに数人集まりだした。クラスメイトに囲まれながら、オロオロしながらも丁寧に教える佐原を見つめとると「あ、侑くん起きたんだね」と中島が笑いかける。


「おー」
「現文眠いよなぁ。ウチも飽きてしもた」


ふぁあ、と萌え袖で欠伸をする中島から目を離し、まだ囲まれとる佐原を眺める。「おおきに」と周りから感謝されて、少し照れくさそうにしとる佐原に腹が立った。


(…なんやねん。おもろないわ)


男苦手で人見知りな彼奴がクラスに打ち解けてるんはめでたいことやのに、俺はホンマに気に入らへんかった。


「…つまらんわ」
「ん、なん？」
「なんも」


中島の視線を無視して、また俺は机に突っ伏した。




お前の隣も、彼奴が他の奴らと打ち解けてるんも、つまらんわ。

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