その能面、俺が剥がしたる【宮侑、宮治】

両手に宮 ページ25

どこからか香る夕飯の匂いに「腹減った」と呟いていた治が、Aに「なんの勉強しとったん」と問う。


「地学と現代文…とあと数学」
「てんこ盛りやんな」


治の隣で表情を柔らかくするAを、侑がチラリと見る。そんな侑の視線に気づいたらしいAが「宮くんたちは毎日この時間まで部活ですか？」

「せや、毎日この時間や。時々もっと遅なるけどな」
「熱心ですね…！」

ほぉほぉ、と興味深そうにするAに治が「バレー好き？」と聞く。その期待を含んだ眼差しにいち早く答えたのは片割れだった。


「佐原、バレー出来んのやと。レシーブ前に飛ばんて」
「ついでにサーブもネットまで届きません」
「終わっとるな」「それは初耳や」


声を揃えて神妙な顔をする双子が面白くて、佐原はクスクスと笑う。そんな突然の笑顔を、二人は思わずじっと見つめてしまった。

「バレー、楽しいですか？」
「「当たり前や！」」

ムキになって声を張る双子の勢いに、鳩が豆鉄砲を食らったようにAは目を丸くする。その何気ない質問が二人のバレー魂に火をつけたようで、そこからは"如何にして佐原にバレーの楽しさを伝えるか"という議題になった。


「…あ、せや！今度練習試合見に来たらどうや」


そう提案は意外にも侑であった。その意見に「それえぇな！」とすかさず治が同意する。

「え、いいんですか？」
「喧しい程女子がごっつ来とるで」
「ちなみにテスト明けた翌週の土曜日や。どうや？」

左右からじっと見つめられ、悩むことなく「宮くんたちがバレーしてるところ見たい」と心を決めた。


「よっしゃ。なんや俄然やる気出てきたわ」
「絶対バレー楽しいて思わせたるからな」


張り切る治と、何か企てるかのような侑に頷いていると、住宅街に差し掛かった。

「ここか？」
「ここです」

家の前に着くと、Aは「今日は遅いのにわざわざありがとう、宮くん」と軽く頭を下げる。そんなAをムッとした顔で見ていた侑が「侑や」と呟く


「それに敬語外してや。硬っくるしいねん」


そんな侑の台詞に目を瞬かせたのはAだけではなかった。


「俺は治やから。そう呼んでや」


慌てたようにそう言う治と、ムスッと不機嫌なままの侑を交互に見て、Aは少しぽかんとしてから口を開いた。



「えと、じゃあ…。ありがとう、侑…くんと、治、くん」



少し照れくさそうに、なんとも言えない顔でお礼を述べるAに、宮兄弟は少しだけむず痒さを感じていた。

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