ポロリ、剥がれた ページ11
社会科準備室は、3階の一番奥。勢いで手伝ってもうたけど、着くまで会話どないしよ。そんな思考を巡らせたけど、直ぐに杞憂やって分かった。
「…ごめんなさい、宮くん。私の仕事なのに」
隣を歩く佐原の申し訳なさげな呟きに、俺は「律儀な子やんなぁ」と呆気に取られる。普通の女子やったら「手伝ってもろてラッキー!」くらいに思うんになぁ。
「えぇねんて。それより、ツムが日直やらんでホンマに迷惑掛けたわ」
「ううん、いいの。大丈夫」
あの野郎、佐原が嫌いと日直やらんは別やろ、と内心毒を吐いておると、佐原は少し言いずらそうに目を右往左往させた。
「…その、この間も、定食券譲ってもらって」
「…あ」
不意に思い出される約一週間前の出来事に呟きが漏れる。地球儀をぎゅっと抱え込む佐原の顔を好奇心で覗き込む。
「ハンバーグ、美味かった?」
「えっ、う、うん!すっごく美味しかった」
問いかけると、どことなく強ばっていた顔を緩ませて佐原は此方を見上げた。細いフレームの奥の目が明るくなったのを見て、自然となんや嬉しゅうなる。
「美味そうに食っとったもんな、食堂のめし、ごっつ美味いもんな」
「宮くんも、いつも日替わり定食食べてるよね」
あ、俺の事気づいとったんや。ぽんやりそんな事を考えながら「おん、毎日の楽しみやねん」と答えると「私も」と意外な答えが帰ってきた。
「宮くんて優しいね。この間も、今回も。話したことないのに」
「いや、なんや目の前で売り切れって罪悪感があっただけやて」
「そっか。でも、」
そこで佐原は何かに気付かされた顔をした。まるで夢から現実に引き離されたかのような表情。目の前には『社会科準備室』と掲げられたドア。
「…なんや?」
「なんでもないです」
「いや気になるやん」
「…やっぱりいいです」
「俺がようないわ」
そんなやり取りを繰り返して、漸く佐原は折れた。言いずらそうに、重い口調で語り出す。
「あのとき、ハンバーグ、だったじゃないですか」
「…?お、おう」
「ハンバーグ、人に譲れるの、凄いなって…」
地球儀を置いた佐原の顔がみるみるうちに「言ってもうた」みたいんなってくのが、やけにおもろくて。
「なんやそれ!お子様みたいやんな!」
思わず吹き出して笑ってまうと、佐原の能面がポロリ、剥がれて──────恥ずかしゅうて堪らんっちゅう顔になった。
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あろま(プロフ) - きのこりさん» 分かりずらくてすみませんでした。ありがとうございます!これからも頑張ります! (2020年4月17日 11時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - きのこりさん» ご指摘ありがとうございます!ここなのですが、夢主が侑が何故自分を誘うのか分からず、「普通なら治くんを誘うのでは?もしかして治くんが映画が嫌いなのかな?」と思って「治くん映画嫌いなの?(だから治くんじゃくて私を誘うの?)」という意味合いで聞いています! (2020年4月17日 11時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
きのこり - ページ36の虫除けで、夢主が「治くん映画〜」てあったんですが、侑くんの話なので、侑くんじゃないでしょうか……。最近この話を知りました。とても楽しく読ませていただいてます。これからも頑張ってください。 (2020年4月16日 22時) (レス) id: b4f9762f22 (このIDを非表示/違反報告)
あろま(プロフ) - アオさん» やー!本当に申し訳ないです!!確認して直しました!指摘ありがとうございます! (2020年3月14日 22時) (レス) id: 0b00b944d7 (このIDを非表示/違反報告)
アオ(プロフ) - あの、以前私が治くん視点なのを侑くん視点と勘違いした話なのですが、夢主の呼び方が「佐原」だったので勘違いしたので、直した方がいいと思います。今更ですみません。 (2020年3月14日 22時) (レス) id: eee0ca23b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あろま | 作成日時:2020年2月19日 23時