【銀魂】シ ュ ガ ー ポ ッ ト

sugar２６．高杉晋助 ページ28

.



きっとあの人は来ない。


……なんて、まるであのクリスマスソングのようだ。今は雨も雪も降っていないことが救いである。

サイレントナイトとは言い難いくらい、恋人や家族が何組も私の目の前を横切っていく。それらを少々恨めしく見送って、何度も近くにある時計台を見上げた。


別に待ち合わせをしていたわけではない。ただ、逢いたかったからここで待っている。

いつもの待ち合わせ場所である駅の前。ここで私は、もう時計の短い針が何度も数字を移動している姿を見ているのだ。



「クリスマスは仕事が忙しい」……そう彼は言った。

しかし、「だから逢えない」とも言わなかったのである。別に逢いたくないのかもしれないが、私は逢いたい。


彼と私の関係を言葉に表すことはできないが、多分彼にとって私は都合のいい女だろう。私は彼のことを都合のいい男だと思ったことはなく、ただの残念な片想いだった。


不意に空を見上げると、綺麗な星月夜。


夜空のイルミネーションは独りぼっちの私を嘲笑い、キラキラと輝く。呆然と見つめていれば、視界はだんだんとボヤけはじめ、頬にナニカが伝う。


それを指で拭うも、指が濡れていた。何度も何度も痛いくらいに目をこする。しかしどうしてか止まらず、大雨によって決壊した川のように氾濫を起こしていた。



『空は晴れてんのに、てめェの天気は雨か』



「運が悪ィな」と自分の身体に出来た影。ゆっくり顔を上げると、ずっと待ち焦がれていた彼が立っているではないか。



『しん、すけさん……』



彼の名前を呼んだ私は、飛びつくように彼を抱きしめた。しかし決して彼は腕を回してはくれない。ただひとつ頭の上に手を乗せただけだ。


本当は全部分かっている。晋助さんに弄ばれていることも、私のことなんて何とも思っていないことも。ただ、この一年に一度の聖なる夜くらいは私の幻想に付き合って欲しい。



冷たい唇が触れ合う。温度のない、ただお互いの存在を確かめ合うようなこのキスはきっと息をするのと同じで彼にとっては何ともない行為なのである。


それでも私は彼の身体に温もりを探す。このままサラサラと風に吹く砂のように消え去っていく心を私も彼も掴もうとしなかった。



そうか、私はこの届きそうで届かない恋が好きなんだ。

sugar２７．吉田松陽→←sugar２５．沖田総悟

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す