【短編集】懐中時計のダーツ盤【あんスタ】 (ページ5)

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「それで、この靴の主を捜してこいっていわれたの」

このサイズにぴったり嵌まるものが、あの美女しかいない。とでも思ったのだろうか。いろいろ浅はかな連中だ。Aは冷めた目で、靴を眺めながら、貴族の奴等を無意識にバカにした。泉はその様子をみると、もう説明しなくてもわかるだろう、とでも言いたげな表情をつくる。だが、Aは靴に夢中なため、最後までこちらでいわないと分かってくれなそうだった。三回目の溜息だ。

「……だからぁ、あいつらは、その靴がはける人、イコール、あの女だと思ってくれてるわけね」
「うん」
「でも、あんたはけてるわけじゃん」
「うん」
「……ここまで言ってもわからない？」

呆れたようにAに目をむける。Aはれ一度頭の上に疑問符を浮かべると、すごい勢いで、それを感嘆符が殺した。

「……え、泉ってさ」
「なに？」
「私のこと好きなの？」

あまりにもどんくさい彼女の発言に、いい加減怒りたくなるが、そこは耐えた。
Aからすると、そこが一番の疑問だった。だって、幼いころに会っただけ。それから文通のみ。どうやって相手のことを好きになったというのだ。自分は完全にただの一目惚れだが、自分は泉のように優れた外見をしていない。それを、それとなくかいつまんで泉に話せば、泉は、今日一番の溜息をはきだした。

「……あんたみたいな、ただの村人と違って、王子って忙しいんだよね。そんな中、好きでもない相手に手紙なんかやると思う？」
「……」

心の中で、泉は優しいからやりそうだよな、と思ったが、黙っておく。泉は続けた。

「あと、あんたのこと別にどーでもよかったら、わざわざこんなとこまで靴持ってこないから」

それを言い切れば、またAの腕を引っ張った。先程より歩みが遅いのは、ガラスの靴をはいていたほうの足が痛かったので、ありがたい。
正直、私のことをその女と言い張るのには、証拠が足りないと思った。私は美女じゃないし、第一、もう片方の靴を差し出せと言われたら、此方にだす術はないだろう。
だけど。……だけど、わくわくしたようすで城に向かう彼が、背中からみるだけでも可愛くみえたから、とりあえず今はいいかなって思った。

(因みに、靴のサイズが合わなかったらどうするつもりだったの？)
(サイズより小さかったら、ダンスのとき踏まれましたもん、みたいな嘘ついてどうにかする)
(無計画すぎる……サイズより大きかったら？)
(あんたの足を削ぎ落とす)
(それこそ無計画すぎるよ！ピッタリでよかったぁ！！)