第二十九話 ページ31
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「そんな顔をするな」
その時、頭に感じた重み
としくんの大きな手が私の頭を撫でていた。
「前にも言っただろう。
会いたくなったら会えばいい。時間なら作ればいい。」
「うん、そうだね」
その言葉を聞くと、まるで寂しさがとしくんの手を通じて吸収されるみたいにスッと無くなっていった。
「ありがとう、としくん」
「ああ」
しばらくすると参拝の順番がやっと回ってきた。
お願い事は受験の成功と家族の安全とか、
あと、としくんの今後の活躍も。
きっと、新たなスタートを切るとしくんにとって今年は飛躍の年になると思う。
これまで以上の場所で、これまで以上のレベルで、バレーボールをするだろう。
その舞台で、怪我をすることなく活躍できますように。
「としくん、私はずっと応援するからね」
「ん？ああ、ありがとう。A」
そう言ったとしくんは、微笑んでいた。
「(なんだろう…ちょっとだけ胸がざわざわする)」
「A、お前が好きなチョコバナナがある」
「…え？あ、ほんとだ！」
参拝を終えた人々が歩く路地には、数多くの出店が立ち並んでいた。
「おじさん、チョコバナナ一本ください」
「はい、毎度」
「ありがとうございます」
ひと口食べると、チョコとバナナの甘さが口のなかに広がった。
このチョコスプレーがたまらん。
「としくんもいる？」
「ああ、ひと口くれ」
はいっと渡そうとした時、
ｶﾌﾟｯ
そのまま顔を近づけてひと口ほおばったとしくん
「甘いな」
また、胸がざわついた気がした。
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作者名：にゃん吉 | 作成日時：2020年1月21日 23時
