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『ーーーそれで、農夫と蛇.......』
千間さんがしてくれた話の内容を思い浮かべて納得する。彼女は苦笑していた。
「ーーー気づいていたかい。彼は探偵ではないお嬢ちゃんをも殺すつもりだったんだよ。夜食と偽りクラッカーを手渡すことでね。」
毒物がついた指でクラッカーを摘ませることで毒殺しようとしたのだろう、と。
『...............っ』
「ーーー流石に後悔したかい?」
千間さんの言葉に少しだけ考える。
『ーーー気づかないうちに向けられていた大上さんからの殺意に........正直に言うと複雑な気持ちです。すごく、理不尽だなって思うし。』
「.............そうだろうね。」
『でもやっぱり彼が助かって良かったと思う自分もいます。例え、どんな人だろうと、人の命は尊いから。今、生きていられるってことが、本当に、貴重なことだと思うから。』
母さんには、できなかった。私は彼女に何もしてあげられなかった。そう心の中で自嘲した。
「.............」
無言の千間さんに気づけば、それに、と言葉を続ける。
『ーーー千間さん、貴女が殺人犯にならなくて良かった。未遂で、良かった。折角のお父様との素敵な思い出、こんなことで汚しちゃ駄目ですよ。』
私がそう言えば千間さんは大きく目を見開き、それから苦笑をこぼした。
「ーーー烏丸に取り憑かれていたのは、どうやら私の方だったようだね。」
彼女は当然立ち上がると、彼女の左側にある扉を開け放した。外気からの風圧で、髪の毛がバサバサと音を立てて揺れる。
『ーーー千間さん?何してるんですか。』
「........ハンカチ、ちゃんと渡すんだよ。」
『ーーーえ、』
そう言った彼女はヘリコプターから身投げをするつもりなのだろう。そう判断した時には既に身体が動いていた。
『ーーーっ!』
千間さんの左腕を掴むと、必死で座席に引き寄せようとする。その瞬間に機体が大きく揺れて私の身体は千間さんと入れ替わるように外界へと飛び出した。
『ーーーひっ』
朝焼けに染まる空が一瞬で反転し、思わず目をつむった。
風圧を直に感じながらも、胃がひっくり返ったような独特の浮遊感に声が出せなかった。
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