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「あぁ。お餅、切れなかったら噛み切っちゃって大丈夫だよ。」
そう言ってAは再度甘酒を口に含んだ。
どうやら餅に苦戦していることを察したらしい。
否、まぁ、それも確かに困っていた内容ではあったが……。
つーか、いいのか噛み切って。そしたらそれは、……あれだ。か、間接……間接、なんちゃらに……なるんじゃねぇのか?
そんなこと考えて悶々してんのも俺だけってことかよ。クソ。なんか、……なんか男として情けねぇ……!
「……っ」
ギリギリと割り箸を握りしめる。
このままでいいのか。せっかく初めて2人で出かけられたのに、このまま終わっていいのか。
考えながら、だが、その答えは否でしかなかった。
「わ、ぁ!」
覚悟を決めてAの肩に手を回し引き寄せる。
元々近くに座っていたこともあり、俺にピタリとくっついたAは驚いたように体を震わせた。
そして、僅かに顔を赤くして俺を見上げる。「影山くん?」と裏返りそうな声で戸惑いを顕にしながら、両手で包んでいた紙コップが歪に形を変えた。
「…………寒いんだったら、そう言え。」
「え、あ……」
多分、今の俺の顔は真っ赤だ。でも、Aも同じくらいに真っ赤だった。
とてもじゃないがAの顔を見ることは出来ない。視線は明後日の方向を向いたまま、反射的に離れようとしたAの肩を引き寄せる。
人通りはあるものの、だからこそベンチの隅に腰掛ける俺たちに目を向ける人なんてほとんどいない。
「……あ、の……その……」
ぎこちなく体を固めたAが、小さな声で何かを言おうとする。
だがその先に言葉は続かず、そして、観念したのか、ふと体の力が抜けた。
ちらとAの様子を伺うと、耳まで真っ赤だった。
俺の方を見る余裕はないようで、視線はずっとつま先を見つめている。
「もう、……熱いくらいだよ……」
ようやく聞こえた言葉は寒さから逃れられた報告だった。
そりゃあそんだけ赤くなってたらそうだろうな。と、相手がこれ以上ないほどに照れているからこそ、自分は少し、冷静になれた。
それからしばらく、俺たちはぴったりとくっついたまま、もくもくと甘酒と雑煮を食べ、食べ終わった頃には身体中が暖かかった。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時