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「甘酒とお雑煮買ってきた」
「……」
「ランニング途中だから、半分こして食べよ」
そう言って俺の横に腰掛けたAは、紙コップに入った甘酒にふうふうと息をふきかけた。
白い湯気がたつそれに目を移し、俺は一つだけ入っている餅をどうすべきかと考える。
これは、餅を噛み切っていいものか、それとも、先に箸で切った方がいいのか……。
「(箸だな)」
そう結論づけ、割り箸で餅を切ろうと挟む。が、しっかりと出汁を吸い込んだ餅は、うにょうにょと伸びるばかりで、なかなか2等分にはなってくれなかった。
そんな中、甘酒を1口飲み、ふぅ、と白い息を吐き出したAは、ふと口元に笑顔を浮べる。
思えば、ランニングついでとはいえ、こんな風に2人で出かけるのは初めてかもしれない。
見下ろしたAの横顔は、落ちてくる髪を耳にかけ、両手で紙コップを持ち、寒さからか、頬が少しピンク色に染まっていた。手袋越しでも甘酒の温かさが伝わるのか、暖を取るように紙コップを中心に少し縮こまっているように見える。
「……」
Aは多分、可愛い……方だ。俺がコイツのことを好きだからとか、そんな理由を差し置いても多分、そうだ。菅原さんや田中さんも言ってたし。
そんで、よく笑って、気が利いて、バレーが上手くて……いい所を上げだしたらキリがない。自慢の彼女だと思う。
対して俺は、女子から見て見たら、彼氏としてめちゃくちゃ良い奴……では無い、と思う。
A以外の女子と上手く話せた試しなんか無ぇし、女子にキャーキャー言われる及川さんみたいに、レディファーストやエスコートなんつーことが上手くできるわけでも無ぇ。
そういえば、いつも1歩踏み出してくれているのはAの方だ。なかなか時間が合わないから、昼飯を一緒に食べようと誘ってくれたのも、弁当を作ってきてくれたのも、だ、……抱きついてきたのも。今日だって、ランニングして初詣に行こうと提案したのは、全部、Aだった。
「?、どうしたの?」
「……っ」
その時、ふいとAが俺を見上げた。不意打ちの視線にドキリとして慌てて前を向く。
まさか、自分が彼氏として何も出来ていないのと、Aがあまりに出来た彼女だと改めて感じていたなんてことを言えるはずもなく。
苦し紛れに「いや……」と曖昧な返事を返すと、Aは小首を傾げながら俺の手元に目を落とした。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時