第65話:次はこの場で ページ32
第65話
「先輩!!」
稲荷崎の試合が終わって、応援席を飛び出した私が向かったのは叶歌先輩たちの元だった。
涙目で走ってきた私を、2人は目を丸めて見ている。
「どうしたのAちゃ……」
「私、バレー上手くなりたいです!!」
きつく握りしめた手は、ふるふると震えていた。
飛雄くんの、日向くんの、──烏野の皆のプレーを見て、自分はまだまだだと痛感した。
私のプレーが持て囃され、褒められ、賞賛されていたのは、「マネージャーなのに」という装飾があったことを今更になって気づいたなんて、とんでもない大馬鹿者で恥ずかしさすらある。
「選抜に選ばれて、新山女子に編入できて、!私、うまくなって認められたんだって調子乗って……!!
私なんてまだまだなのに、っ、今の自分に、満足しかけてました!!」
「……」
選手になると決めても尚、心のどこかでマネージャーの盾を剥がしきれていなかった自分が、ひどく、情けなかった。
世界なんて言葉を軽々しく吐けるほど、私はバレーがうまくない。そう自覚した。
「まだぺーぺーですけどっ、先輩たちみたいにもっともっとバレーうまくなって、!
新山女子でレギュラーになって、っ全国優勝したいです……!!」
ひくりと肩が震え、涙が頬を伝った。
感情のままに先輩たちへ想いを伝える。
何事かと振り返る人もいる中、それでも私はこのごちゃごちゃを抑えきれなかった。
「だから、っ、だから私……っ、」
「Aちゃんなら出来るよ」
その時、私の言葉が遮られた。
ハッとして顔を上げると、そう言ったのは叶歌先輩だった。
「って、言ってた。
そんな状態のAちゃんを見る前だったら。」
どういう意味だろう。言葉の意味を上手く理解できず口を噤む。
叶歌先輩はいつも優しくて、でもどれだけ指導をお願いしてもふわりと躱され、私なんてと謙遜していた。
「Aちゃんなら出来るよ」。この言葉を何度かけてもらったかわからない。
でも、今の叶歌先輩はその言葉を否定した。
「ブロックアウトが苦手。ネットに近いボールの処理が苦手なのを誤魔化してる。ジャンプを疎かにしがち。
──心当たりある?」
「っ、はい!」
涙を拭いて、大きく返事をする。
騒々しい体育館の中でも、叶歌先輩の言葉は強く私の胸に刺さった。叶歌先輩が今言ったことはすべて、私が克服すべき課題だったからだ。
ポケットからメモを取りだし、必死に課題を記しながら頭に叩き込む。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時