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「ちょっと外行ってくる!」
「は!?次風呂おれ達だぞ!
つか明日は試合……ちょ、おい山口!影山が……っ」
それなら直接ホテルに乗り込んで事情を聞き出すまでだ。
立ち上がった俺を止めようと日向が山口を呼ぶが、静止を振り切ってコートに袖を通し、靴を履く。
その時──
「!」
ブブ、と尻ポケットの携帯が震えた。
慌てて画面を開くと、Aからのメールだった。
メールはとても端的で、ただ一言、「今宿の前にいる」とだけ書いてある。
驚いて宿の玄関扉を開けると、少し離れたところに人影が見えた。
「オイ、っ」
何かあったのか、それとも何も無かったのか、いや、そんなことよりこんな時間にこんなとこで何やってんだ。言いたいことはたくさんあったが、Aの様子を見て口を噤んだ。
Aは片手にジャージを抱えた半袖姿で、今の今まで運動していたことがわかるくらい汗をかいていたからだ。
「メール気づかなくてごめん。
もう寝る準備してたよね。遅くなっちゃった……」
「……いや、──」
「オイ影山明日試合なんだから……ってAさん!?」
何から言えばいいのか。言葉に詰まっていたその時、俺を追いかけてきたのだろう。日向がドタバタと現れ、俺の横で大きく声を上げた。
「もしかして、おれ超邪魔した……?
え、でもAさんなんでそんなカッコしてんの!?」
息つくまもなく喋り倒す日向に、Aは苦笑する。
東京と言えど、この辺りは比較的静かだ。日向の声はよく響く。
街灯も離れていて暗く、表情はわかりづらい。
そんな中で、Aは静かに口を開いた。
「走り込みと筋トレしてた。」
「新山女子ストイックすぎねぇ!?
今日試合だったよね!?」
「ううん、やったのは私だけ。自主練だよ。」
Aは努力家だ。その事実を、俺はよく知っている。
だが、今までと違う何かを感じた。
こんな時間までこの東京の地で、たった1人で、こんなに汗をかくまで練習をしていたのは、少し、意外だと思った。
「へえー!Aさんすげー!おれも負けてらんねー!」
今日の稲荷崎戦から興奮冷めやらぬ様子の日向はその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
いつもの調子のあっけらかんとしたものだったが、Aはそんな日向に対して、きゅっと顔を引きしめた。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時